この原稿を書き始めてすぐ、あるニュースが目に止まりました。
「アメリカの女子サッカーリーグで起こったハラスメント問題」。
長年にわたって監督を歴任した男性が、
複数の選手にセクハラを強要していたことが発覚。
おまけに、チームとリーグはこの問題を6年間にもわたって封印。
当然、選手は猛反発します。
試合途中に、ベンチメンバーを含めた選手たちがピッチへ集合し、全員で円陣。
チームの境なく肩を組み、抗議や連帯を示す事態へと発展したのです。
この様子は、YouTubeにも上がっているのでご覧になってみてください。
時代は変わりました。
この抗議活動は、事前に選手側から
審判や運営スタッフに申し合わせがあった上で行ったそう。
ひと昔前はNGだった「スポーツの場」での抗議運動も、
ポジティブな方向へと変化してきています。
"あなたを助けたい"という純粋な思いが、大きなうねりに。
もっと、もっと、広がるといいなあ。
このように声を上げられずにきた多くのマイノリティの人を、
僕は映画を通してたくさん観てきました。本当に、たくさん。
国籍も時代も異なる世界中の人たちを。その困難な人生を。
中でもインパクトが強かったのは、『チョコレートドーナツ』。
タイトルやデザインのイメージから、
やわらかな空気を纏ったヒューマンドラマと思っていたら、
いやいや、とんでもなかったです。
まずは内容からご確認ください。
***
1979年、カリフォルニア。
シンガーを夢見ながらもショーダンサーで日銭を稼ぐルディ。
正義を信じながらも、ゲイであることを隠して生きる弁護士のポール。
母の愛情を受けずに育ったダウン症の少年・マルコ。
世界の片隅で3人は出会った。
そして、ルディとポールは愛し合い、
マルコとともに幸せな家庭を築き始める。
ポールがルディのために購入した録音機でデモテープを作り、
ナイトクラブへ送るルディ。
学校の手続きをし、初めて友達とともに学ぶマルコ。
夢は叶うかに見えた。
しかし、幸福な時間は長くは続かなかった。
ゲイであるがゆえに法と好奇の目にさらされ、
ルディとポールはマルコと引き離されてしまう…
***
この物語は、1970年代のアメリカで実際に起こった話がベースとなっています。
脚本を手がけたのは、
"障がいを持ち、母親に育児放棄された子どもと、家族のように過ごすゲイの男性"と、
当時同じアパートに住んでいたジョージ・アーサー・ブルーム。
そのシナリオを読んだトラヴィス・ファイン監督は、崩れ落ちて涙を流したそうです。
彼自身はゲイではないですが、
愛するわが子を奪われる苦しみに普遍性を感じ、映画化したと言われています。
もしかしたら、これほどまでに
ハッピーエンドを切望した映画は他にないかもしれません。
マルコが嬉しそうにしているときはこちらも嬉しくなり、
悲しそうに泣いているときは同じように悲しくなる。
映画を観ている観客も、ルディとポールと同じような気持ちで、
"あなたを助けたい"と純粋な気持ちで映画を見つめることになります。
その共感力が、とっても高い作品なのです。
世の中の不公平さ、差別や偏見が進む時代だからこそ、
より多くの人に観てもらいたい!
とある番組で、LiLiCoさんが涙ながらに本作を語っていたのと同様、
僕もトークショーで紹介する際、涙を抑えることができませんでした。
「マルコが好きだったもの。
人形のアシュリー、ディスコダンス、ハッピーエンドのおとぎ話、
そしてチョコレートドーナツ。」
書いているだけで涙が出てきます。
温かくて悲しくて、それでいて慈愛に満ちた物語。
大切な人ともにぜひ。
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『チョコレートドーナツ【おトク値!】』
Blu-ray 2,750円(税込)
DVD 1,980円(税込)
デジタル配信中
https://movie.lnk.to/choco
発売・販売元:ポニーキャニオン
©2012 FAMLEEFILM,LLC
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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