キノ・イグルーの週末シネマ​ no.53
ボンジュール、アン|人生哲学が詰まってる至高のロードムービのカバー画像

ボンジュール、アン|人生哲学が詰まってる至高のロードムービー

文:キノ・イグルー 有坂塁

ボンジュール、アン|監督:エレノア・コッポラ(2016年・アメリカ)

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2018年06月22日作成



"ロードムービー"というと、マフィア映画やサスペンスと並んで、

男性受けのいいジャンルと言われます。

まだ見ぬどこかへ行きたい!という男のロマンなのか、

夢見がちな男子の現実逃避か定かではありませんが、

かく言うぼくも好きなジャンルのひとつだったりします。


さらに歴史を振り返ると、

ロードムービー映画の主人公って男性が圧倒的に多いことがわかります。

4人の少年たちによる冒険物語『スタンド・バイ・ミー』、

チェ・ゲバラの若き頃を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』、

ジム・ジャームッシュの初期作品などもそうですね。


しかし近年は『リトル・ミス・サンシャイン』のような家族ものや、

女性が主人公のロードムービーという、新しい潮流も生まれてきています。

これは時代の流れだけでなく、ジャンルとして成熟したことにより、

いよいよ次のタームに入ったのではないかと推測します。


そんな中にあって、2016年に公開された『ボンジュール、アン』は、

女性が主人公ということだけでなく、

さまざまな意味で画期的なロードムービーだったのです。


***


仕事ばかりの映画プロデューサー・マイケルの妻で、

子育ても一段落したアンは、

ひょんなことから夫の仕事仲間のジャックの車に同乗して

カンヌからパリに戻ることになる。

ところが、単なる移動のはずのドライブは、

おいしい食事や南フランスの美しい景色を楽しむうちに

充実したひと時となり…


***


そう、本作はロードムービーにも関わらず、

大自然のなかでひとりぼっちになったり、

見知らぬ誰かに襲われたりというスリルが皆無なのです。


景色がよければ休憩し、おいしい食事に舌鼓。

およそ、苦労とは無縁の世界。

どちらかというと、フランス縦断1泊2日のグルメ旅といった様相で、

のんびり、穏やかに、旅が進んでいくのです。


「スローダウンした人生を生きましょうと伝えたかったの。

多忙な時代だけど、ゆとりを持って自然を楽しみましょう。

テラスでワインを飲んだり、午後にはアイスクリームを食べたり、

余裕を持って人生を楽しみましょうよって。

人生はレースじゃないんだから」


この素敵なコメントは、エレノア・コッポラ監督によるもの。

映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の妻であり、

ソフィア・コッポラの母でもある彼女が、

なんと80歳にして初めて手がけた長編劇映画なのです。

じつは、彼女の名を冠した赤ワイン

「エレノア レッド・ワイン2012」というものもありますので、

鑑賞のおともにぜひ。

普通にネットで購入することができるので、調べてみてください。

その際は"フランス産"のチーズもお忘れなく!

(これは、観ればわかります)


************************************************
『ボンジュール、アン』
DVD 3,800円+税
好評発売中
発売・販売元:TCエンタテインメント
(C)American Zoetrope, 2016

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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