"ロードムービー"というと、マフィア映画やサスペンスと並んで、
男性受けのいいジャンルと言われます。
まだ見ぬどこかへ行きたい!という男のロマンなのか、
夢見がちな男子の現実逃避か定かではありませんが、
かく言うぼくも好きなジャンルのひとつだったりします。
さらに歴史を振り返ると、
ロードムービー映画の主人公って男性が圧倒的に多いことがわかります。
4人の少年たちによる冒険物語『スタンド・バイ・ミー』、
チェ・ゲバラの若き頃を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』、
ジム・ジャームッシュの初期作品などもそうですね。
しかし近年は『リトル・ミス・サンシャイン』のような家族ものや、
女性が主人公のロードムービーという、新しい潮流も生まれてきています。
これは時代の流れだけでなく、ジャンルとして成熟したことにより、
いよいよ次のタームに入ったのではないかと推測します。
そんな中にあって、2016年に公開された『ボンジュール、アン』は、
女性が主人公ということだけでなく、
さまざまな意味で画期的なロードムービーだったのです。
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仕事ばかりの映画プロデューサー・マイケルの妻で、
子育ても一段落したアンは、
ひょんなことから夫の仕事仲間のジャックの車に同乗して
カンヌからパリに戻ることになる。
ところが、単なる移動のはずのドライブは、
おいしい食事や南フランスの美しい景色を楽しむうちに
充実したひと時となり…
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そう、本作はロードムービーにも関わらず、
大自然のなかでひとりぼっちになったり、
見知らぬ誰かに襲われたりというスリルが皆無なのです。
景色がよければ休憩し、おいしい食事に舌鼓。
およそ、苦労とは無縁の世界。
どちらかというと、フランス縦断1泊2日のグルメ旅といった様相で、
のんびり、穏やかに、旅が進んでいくのです。
「スローダウンした人生を生きましょうと伝えたかったの。
多忙な時代だけど、ゆとりを持って自然を楽しみましょう。
テラスでワインを飲んだり、午後にはアイスクリームを食べたり、
余裕を持って人生を楽しみましょうよって。
人生はレースじゃないんだから」
この素敵なコメントは、エレノア・コッポラ監督によるもの。
映画界の巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の妻であり、
ソフィア・コッポラの母でもある彼女が、
なんと80歳にして初めて手がけた長編劇映画なのです。
じつは、彼女の名を冠した赤ワイン
「エレノア レッド・ワイン2012」というものもありますので、
鑑賞のおともにぜひ。
普通にネットで購入することができるので、調べてみてください。
その際は"フランス産"のチーズもお忘れなく!
(これは、観ればわかります)
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『ボンジュール、アン』
DVD 3,800円+税
好評発売中
発売・販売元:TCエンタテインメント
(C)American Zoetrope, 2016
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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