映画と建築といえば。
2019年の7月、建築家・中山英之さんにお声がけいただき、
彼の個展「, and then」にて、
建築と映画についてのトークイベントと上映会を行いました。
トークイベントは、"建築のない映画館"と題し、
映画監督・安藤桃子さんも交えて開催。
このときの記録は、noteで公開されているので、
よかったらそちらをご覧になってください。
(キノ・イグルーHP"ISSUE"から飛ぶことができます)
みっちり2時間、大いに盛り上がりました。
そして上映会では、
スウェーデンの名匠イングマール・ベルイマンの『冬の光』(1963) を上映。
建築をテーマに選んだのですが、あえて、現存する建造物ではなく、
巨大セットが印象的な"映画的"な作品をセレクトしました。
最初は、現存する建造物の方でリスト作りを進めていたのですが、
展覧会の性格を考えると少しズレるかなと思い直し、断念。
そのときに日本映画の筆頭候補に挙げていたのが、『繕い裁つ人』でした。
神戸市周辺の魅力的な建築が数多く登場する、2015年に制作された人間ドラマ。
ストーリーは、このようになっています。
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あなただけの〈特別な〉一着、仕立てます。
神戸の街を見下ろす坂の上に、その店はあった。
「南洋裁店」という小さな看板が掛けられた、古びた洋風の一軒家。
店主の南市江が仕立てる服は、いつも人気。
すべて昔ながらの職人スタイルを貫く手作りの一点ものだ。
神戸のデパートに勤める藤井は、市江にブランド化の話を持ち掛けるが、
まるで"頑固じじい"のような彼女は、全く興味を示さない。
市江が手がけるのは、一代目である祖母が作った服の仕立て直しとサイズ直し、
あとは先代のデザインを流用した新作を少しだけ。
「世界で一着だけの、一生もの」
それが市江の繕い裁つ服が愛される、潔くも清い理由だった。
だが、南洋裁店に通い詰めた藤井だけは、市江の秘めた想いに気付いていた。
やがて、彼の言葉に、市江の心は初めて揺れ動く―
***
本作は、オール兵庫県ロケで作られています。
物語の中心的な場所となる「南洋裁店」は、
兵庫県川西市にある有形文化財「旧平賀邸」を使用。
NHKの朝ドラ『マッサン』のロケ地としても知られた場所で、
外観だけでなく室内のシーンもここで撮影されたそう。
大正時代に建てられたものを、1990年に現在の場所へ移築・復元。
家具や調度品も建設当時そのままという、
とっても貴重なイギリス風の洋館になります。
木の温もりを感じる落ち着いた空間。
柔らかい光がそそぐ玄関のステンドグラス。
絶妙な風合いのアンティーク家具。
そこに、床板に響く靴音や、
リズミカルなミシンの音が心地よく響くことで、
居心地のよさを感じ、立体感も生まれるわけです。
作り手に"建築愛"がなければ、ここまでのこだわりは見せられないはず。
さらに本作では、もう一軒、クラシカルな洋館が登場します。
神戸市塩谷にある「旧グッゲンハイム邸」。
こちらは現在でもイベントスペースとして解放しているので、
訪れたことがある人も多いのではないでしょうか。
築100年を超すコロニアルスタイルの洋館となっていて、
劇中では、結婚式の会場として、ガーデンパーティーのシーンなどで登場します。
他にも、眺めているだけで幸せになれる、
レトロな喫茶店や雑貨店、洋裁店も出てくる、
建築好き必見の一作となっています。
監督は、『しあわせのパン』でメガホンを取った三島有紀子。
建築と映画の両方を楽しみたい方、この週末にぜひ。
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『繕い裁つ人』
Blu-ray 6,050円(税込)
発売・販売元:ポニーキャニオン
©2015池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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