キノ・イグルーの週末シネマ​ no.130
天国の日々|それは、まるで希望のよう光が印象的な映のカバー画像

天国の日々|それは、まるで希望のよう光が印象的な映画

文:キノ・イグルー 有坂塁

天国の日々|監督・脚本:テレンス・マリック(1978年・アメリカ)

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2019年12月13日作成



『ユリシーズの瞳』(1995)という映画があります。


説明的なセリフは一切なし。

映像はロングショットの連続+鬼のような長回し、

という個性的なスタイルを持った2時間49分の壮大なる叙事詩。

監督は、ギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロスです。


この作品をぼくは20歳のときに日比谷シャンテシネで観たのですが、

当時はまだ、トム・ハンクスやメグ・ライアンなどの

エンターテインメント作品しか観ていなかったため、

物語の意味からメッセージ性まで何ひとつ理解ができませんでした。


でも。

心で何かを感じたのです。

思考停止状態なのに、心はざわついてる。

その答えが知りたくなり、続けてもう一回観てみることに

(当時の映画館は、入替制ではなかった)


そこでわかった、光の美しさ。

物語以上に、寒々しい風景をつつみこむ"光"そのものに

心を奪われていたことに気づきました。

その光を、いつまでも観ていたかった。


そこで「撮影監督」という職業について調べていくと、

"キャメラの魔術師"の異名を持つ

ネストール・アルメンドロスという人にたどり着きました。


彼はスペイン人ながら、1960年代フランスで名を挙げたキャメラマン。

トリュフォーやロメールなど眩いばかりのフィルモグラフィーの中、

誰もが「マスターピース」と絶賛した作品こそが、

アメリカで制作した『天国の日々』だったのです。

こんな内容。


***


1910年代、青年ビリーと妹リンダ、

そしてビリーの恋人アビーはテキサスの農場に流れ着き、そこで働き始める。

やがてビリーの妹と偽っていたアビーに惹かれる農場主のチャックが

病気で余命幾ばくもないことが発覚。

ビリーはアビーをチャックと結婚させ、そのお陰で厚遇を受けることに。

しかしチャックは妻とビリーの関係を疑い…


***


本作は、驚異的としか言いようのない美しい映像で伝説化しました。

最大のポイントは、三谷幸喜作品でお馴染みのワードとなった

"マジックアワー"。


みなさん、この言葉の意味ってご存知でしょうか?

これは、太陽が地平線に沈んだあと20分ほど光が残る時間帯を指す撮影用語。

光がどこからどういうふうに当たっているかわからなくなるため、

昼なのか夜なのかわからない独特の光になる。

このときに撮れば、何もかもが最も美しい状態で

映像に収められると言われています。


驚くことに『天国の日々』のほとんどのシーンは、

このマジックアワーを使って撮影されているのです。

すごくないですか?

だって一日の大半を準備に費やして、

残りの20分だけで撮影するんですよ。

それを何日も。

非効率きわまりないし、普通に考えたら狂気の沙汰です。


でもその結果、本作は神話的な存在となりました。

映像はソフトで暖かく、黄金色に輝いてみえる。

まるでミレーが描いた風景画のような、

うっとりする美しい映像がフィルムに焼きつけられているのです。

さらにそこに寄り添う音楽が、

『ニュー・シネマ・パラダイス』のエンニオ・モリコーネなのだから文句なし。


テレンス・マリックとネストール・アルメンドロス、

その他のスタッフのみなさん、本当にありがとうございます。


彼らが一途に追い求めた最高の"光"を、

ぜひ、あなたも堪能してみてくださいね。


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『天国の日々』
DVD 1,429円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年12月の情報です。

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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