あらためて注目することはあまりないかもしれませんが、
衣装デザインも映画の世界を構成する上で、とても重要な一要素です。
というより、視覚的メディアの映画にとっては、
マストと言っていいかもしれません。
アメリカのアカデミー賞では、
1948年に「衣装デザイン賞」という部門が創設され、
その仕事へのリスペクトは、音楽や脚本と同等の扱いを受けています。
(ちなみに、1966年までは「カラー映画」と「白黒映画」の2部門に分かれていた!)
優れた衣装は、画面を華やかに彩るだけでなく、
ときに登場人物の心情をも代弁し、ストーリーの展開を暗示するのです。
色、シルエット、どんなシチュエーションで何を着るのか。
そのすべてを一任されているのが、衣装デザイナーというお仕事です。
歴史を見ると、オスカーの栄誉に8度も輝いたイーディス・ヘッドが、
アメリカで最も有名な衣装デザイナーと言われています。
作品は『ローマの休日』や『スティング』など。
またアメリカ人だけでなく、
キューブリック映画から『グランド・ブダペスト・ホテル』までを
手がけたイタリア人のミレーナ・カノネロや、
ワダ・エミ、石岡瑛子といった日本人デザイナーまで、
世界各国の才能が衣装デザイナーとして活躍し、オスカーを受賞しているのです。
その中でも個人的に大好きなひとりが、イギリス人のサンディ・パウエル。
彼女との出会いは、2000年の初め。
わずか1年の間に観た3本の映画の衣装があまりに素晴らしく、
衣装のクレジットはいずれもサンディ・パウエルだった、
という運命的な出会いでした。
その衝撃ともいえた1本目が『エデンより彼方に』だったのです。
まずは、簡単にストーリーからご紹介しましょう。
こんな感じになっています。
***
偏見や差別意識がごく普通に存在した
1957年の秋、コネチカット州ハートフォード。
キャシー・ウィテカーは誰もが認める"理想の主婦"。
一流企業の重役に就く夫フランクの貞淑な妻として、
また愛する2人の子供の良き母として、
地域社会の中でも一目置かれる存在だった。
だがある日、残業のフランクのもとへ夕食を持って行った彼女は、
そのオフィスで見てはならない夫の秘密を知ってしまう。
以来、心の安定を欠いてしまったキャシー。
そんな彼女を新しくやってきた黒人の庭師レイモンドが気遣うようになり、
2人は次第に打ち解けていくのだったが…
***
この映画はひと言でいうと、"色鮮やか"なメロドラマです。
実際にトッド・ソロンズ監督は、
1950年代にハリウッドで作られたテクニカラーのメロドラマを細部まで研究し、
それらの要素を誇張して作ったんだ、とインタビューでも答えています。
完璧主義者の彼は、「赤、黄、緑」という3つの色彩で画面全体をコントロール。
そのこだわりは尋常ではなく、紅葉の中に色が足りない場合は、
CG処理をするのでなく、葉っぱを一枚一枚ペイントしたのだそう。
そして、ここまで完璧に色彩設計すると、
「赤、黄、緑」以外の"色"にも何か意味が出てくるわけです。
ここはぜひ注目して観てもらいたいポイントのひとつ!
そんな完璧にカラーコーディネートされた世界と
見事に調和するサンディ・パウエルの衣装の数々。
いかにも50'sという趣きのタイトなテイラード・ジャケットに
ふわっとしたフレアスカート。
頭に巻くスカーフや、大ぶりのパールでアクセントをつける
古き良き"淑女"ファッションが目を楽しませてくれます。
アウターを着たときのシルエットがオーバーサイズ気味なのも、
いまの気分にぴったりです。
そこに、人工的な照明を使って"色"や"衣装"を強調させると、
画面からスーッとリアルさが失われ、ファッション誌の1ページが動き始めたような、
不思議な感覚に襲われます。これはぜひ観てほしい!
モダンで、エレガントなサンディ・パウエルの衣装。
『シルヴィア』(2003)、『シンデレラ』(2015)、
『パーティで女の子に話しかけるには』(2017)あたりもオススメですが、
極めつけは、トッド・ヘインズとの再コラボ作『キャロル』(2015) 。
こちらでは、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラーという2大女優の
50年代ニューヨークファッションが存分にお楽しみいただけます。
合わせてぜひ。
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『エデンより彼方に』
DVD 3,800円+税
Blu-ray 4,800円+税
発売元:アイ・ヴィー・シー
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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