ぼくが初めて観たダンス映画が、

今回ご紹介する『タンゴ・レッスン』だったのですが、

正直言うと最初は観る気が起きませんでした。


というのも、映画の主題である＂タンゴ＂自体に

そもそも興味も関心も一切なかったのです。

当時のぼくは「出会ったものをまずは受け入れる」という今に比べると、

とても保守的なところがあったのです。


それでも観てみようと思えたのは、

監督がハリー・ポッターならぬ、サリー・ポッターだったから。

彼女の前作『オルランド』(1992) は、当時のぼくのフェイバリットムービーの1本。

その摩訶不思議で圧倒的な世界観に、

完全にハートを鷲掴みにされてしまったのです。


『タンゴ・レッスン』は、そんな人の最新作。

しかもストーリーは彼女の経験がもとになっているうえに、

なんと、主役を彼女自身が演じているというじゃないですか！

それは観ないわけにはいきません。


＊＊＊


気分転換にパリの街に出た映画監督のサリーは、偶然タンゴの舞台を観る。

そこでサリーはアルゼンチンが生んだ有名なダンサー、

パブロ・ヴェロンとの運命的な出会いをする。

その魅力に心奪われたサリーは、パブロから受けた＂タンゴ・レッスン＂が忘れられず、

自らブエノスアイレスへ赴きレッスンを重ねる。

すっかり上達して再びパブロの前に姿を現したサリーに、

彼は本格的なレッスンを始め、パートナーとしてステージで踊ることを提案する。

レッスンを重ねるごとに、ふたりの感情に変化が訪れ…


＊＊＊


サリー・ポッターは、元々ダンサーだった人で、このとき48歳。

これまた本人が演じているパブロ・ヴェロンは30歳で、

ふたりは私生活でも、パートナーだったそう。

この虚実入り混じった構成が、何とも言えずスリリング。

ふたりの間に、ふと、生まれる表情や雰囲気は、もはや演技を超えた親密感。

ドキュメントとフィクションを融合させられるということも、

ぼくはこの映画を通して初めて知ったのです。


もちろん、最大の見どころは、数あるタンゴシーン！

練習中のスタジオはもちろんのこと、セーヌ川のほとりや、

なかには『雨に唄えば』へのオマージュではないか？

という雨中でのシーンなどもあり、

情熱的で官能的なタンゴが存分にお楽しみいただける内容となっています。


ぼくは、この映画を観たことで、タンゴへの好奇心の扉が開きました。

本場のダンサーのステージを見に行きましたし、

このあとに誕生したタンゴ映画もすべて観ました。

といっても、実際に踊ったことはないのですが…


ぼくと同じように、まだタンゴに関心のない方は、

ぜひサリーの「情熱に始まり、恍惚で終わる12の授業（レッスン）」を受け、

異国の感覚を取り入れてみるのも、いいのではないでしょうか。


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