まずは、お詫びを。
今回「山気分を楽しむ」というキナリノらしいお題をいただきながら、
ゴリゴリ硬派な山映画になってしまいました。申し訳ありません。
(正攻法でいけば、沖田修一監督『滝を見にいく』でしょうか)
本連載での"山"テーマはおそらく一回きりだろうし、
それなら山の存在そのものが主人公のような豪快な1本を!
という誘惑に抗うことができず『劔岳 点の記』を選んでしまいました。
でもね、すごくいい映画なんです。
それに、普段自分では選ばない映画から、
異なる感覚を取り入れるのも面白い体験だと思うので、
この出会いを積極的に楽しんでいただけたらと思います。
監督は『八甲田山』(1977) などでおなじみ、
日本を代表するカメラマン、木村大作。
彼が50年の映画人生の全てをかけて取り組んだ、
初の監督作品です。
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明治40年、日本地図完成のために立山連峰、劔岳への登頂に挑む、
陸軍測量手の柴崎芳太郎ら7人の測量隊。
山の案内人、宇治長次郎や助手の生田信らと頂への登り口を探すが、
生田が足を滑らせけがを負ってしまう。
大自然の厳しさを見せつけられた測量隊だったが、
柴崎と宇治はある言葉を思い出し…
***
"日本地図完成のためだけに、誇りを持って仕事に生きた男たち"
このシンプルな筋立てを、木村大作は徹底したリアリズムにこだわって描きます。
標高3000メートルに達する立山連峰にこもり、
すべてのスタッフ・キャストは40キロ近い機材などを背負い、
撮影現場と山小屋を往復する毎日。
高山病にも悩まされながら、
足掛け2年、延べ200日超かけて撮影されたという、
文字通り執念の一作です。もちろんCGは一切使っていません。
あと、個人的に好きなエピソードがあります。
山の天気が悪くなって撮影が中断したとき、
監督が「祈れ、お前ら!」と香川照之らキャストやスタッフに命じ、
両手を組んで拝ませます。
それでも天気が良くならないことに責任を感じた香川は、
誠意を見せるために20キロの荷物を背負って、
「もう僕たち、いけるんでお願いします!」と空に向かって叫んだのだそう。
でもクールな松田龍平だけは参加せず、
ひとりしっかりと休息を取っていたのだとか 笑
さすが、優作の息子です。
そんな極限状態に置かれた人間と、
大自然の脅威をフィルムに焼き付けてくれただけで、
観てみよう!という気持ちになりませんか?
でも結果的に、山へ行く気がなくなってしまったら、すみません。
そこの責任はとれませんが、でもやっぱり観てほしいなあ。
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『劔岳 点の記』
メモリアル・エディションDVD 2,856円+税
レジェンド・ボックスDVD 6,500円+税
Blu-ray 5,700円+税
発売元:フジテレビジョン
販売元:ポニーキャニオン
(C)2009「劔岳 点の記」製作委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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