川辺の風景。
放課後の時間。
異性へのドキドキ。
"あの頃"にぼくらが感じていた、
言葉にならないさまざまな感覚・感情を、
ギュッと真空パックにして詰め込んだ作品が
今日ご紹介する『好きだ、』です。
***
ユウとヨースケは同じ高校に通う17歳。
元野球部のヨースケは、
いつも放課後になると川辺でギターを弾いている。
将来は音楽で食べていきたいと思うが、
まだまだ下手で同じところばかり弾いている。
ユウはその横でギターを聴いているうちに
いつのまにかユウも曲を覚えてしまった。
ユウには姉がいる。
半年前に大切な人を亡くした姉をユウも、
そしてヨースケも心配していた。
覚えたメモリディーをユウは家でも鼻歌で歌っていた。
そのうちに姉も覚えてしまった。
ある日、ヨースケがユウの姉を川辺に誘った。
姉が川辺に向かう途中事故にあってしまう。
それをきっかけにユウとヨースケも会わなくなる。
17年後、偶然二人は再会し…
***
セリフが極端に少ない本作は、
たくさんの余白と行間に、
真の思いがぎっしり詰まっています。
そして、その思いを包み込むように、
川のせせらぎ、風の音、
虫の声など生きた音の数々が静かに聴こえてきます。
それはぼくたちがかつて感じたことのある何かであり
過ごしてきた時間でもあります。
そんな遠い記憶をゆっくりと呼び覚ましてくれる作品が、
この『好きだ、』なのです。
監督は、資生堂「マシェリ」のCMや、
映画『ペタル ダンス』を手がけた石川寛さん。
この息づかいや心臓の鼓動まで聞こえてきそうな
"語らない美しさ"というのは、
ある意味、彼の作家性と言えるかもしれません。
ぜひ本作をとおして、
"あの頃"の感覚を蘇らせて、
長年、連絡をとっていなかった、
あの人に会ってみるなんていかがでしょうか?
************************************************
『好きだ、』
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
(c)「好きだ、」製作委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site