"時を超える"って、なんでこうもワクワクするんでしょう。
土の中に埋めたタイムカプセル、
部室に殴り書きされた先輩たちの言葉、
旅館で見かけるメッセージノート。
実在してないけど、確かに感じるその人のぬくもり。
どんな状況で書いたのかなと妄想してみたり、
思いがけず心に響く言葉に出会えたり。
今回ご紹介するタイ映画『すれ違いのダイアリーズ』は、
そんな"時を超える"というワクワクそのものをテーマにした、
爽やかな感動作です。
***
ソーンはいい奴だけど、かなり情けないお気楽男子。
恋人に定職を持つように叱られて、仕方なく仕事探しを始めたものの、
ようやく見つけた仕事は、電気なし・水道なし・携帯電話もつながらない
僻地の水上学校の先生だった。
赴任したものの、スポーツしか自信がないソーンは毎日失敗ばかり。
ある日、前任の女性教師エーンの日記を見つける。
そこには、自分と同じように僻地の学校で寂しさを感じ、
子供達の教育や恋人との関係に悩む、
エーンの正直な心の中が書かれていた…
***
このストーリーだけでも、面白そうじゃありませんか?
日記を読むうちに、そこに書かれた悩みに共感して、
教え方を学び、やがては会ったことのないエーンに恋をして、
彼女を探し始めてしまう。
このロマンティックな展開が、
『めぐり逢えたら』や『ラブ・アクチュアリー』のように
映画的でいいなあと思うんです。
ところが本作、実話を元にした話だというから驚きました。
ベースは、タイに実在する水上学校の話と、日記を読んで恋をした男性の話。
これらをミックスした巧みなストーリーテリングで、
誰もが楽しめる感動作に仕上げたニティワット・タラトーン監督おそるべしです。
そしてこの実話に出会ったときの監督の心境は、
おそらくソーンが日記を見つけたのと同じように「時を超えた贈り物だ!」と
感じたのでしょうね。
舞台となるケーンクラチャン国立公園のロケーションも素敵だし、
願い事を書いて空に放つコムローイ(熱気球)など、
一度は訪れたくなるタイの魅力もたくさん詰まった、
いいとこだらけの隠れた名作。
ピュアな心に触れたい方にもおすすめです。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site