「自分の価値を知りたいなら、もっと外に出ろ」
これは中学校時代に、サッカー部の恩師から言われたありがたいお言葉です。
当時のぼくは、一年生からレギュラーを任され、その後もエースという立場に。
そんなお山の大将だったぼくに、監督は「外の世界」を見させようと、
東京都選抜チームのセレクションを受けさせてくれました。
その年代における東京のトップが集まるんだから、刺激的に決まっています。
実際に想像以上にハイレベルな環境で、
14歳のぼくにとっては人生初のカルチャーショックでもありました。
しかしその環境を経験したことで、成長曲線は右肩上がり。
外の世界を知ったことで心の余裕が生まれ、
自分の個性を見つめ直すことができたのです。
無事、選抜チームにも選ばれることができました。
2013年に『天才スピヴェット』を観たとき、
自分でも驚くほど主人公に共感したのは、
彼の置かれている状況が、自分とシンクロしたからに他なりません。
こんな、物語です。
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モンタナの牧場で暮らす10歳のスピヴェットは、生まれついての天才だ。
だが、身も心も100年前のカウボーイの父と昆虫博士の母、
アイドルを夢見る姉には、スピヴェットの言動が今ひとつ分からない。
さらに、弟の突然の死で、家族の心はバラバラになっていた。
そんな中、スピヴェットにスミソニア学術協会から、
最も優れた発明に贈られるベアード賞受賞の知らせが届く。
初めて認められる喜びを知ったスピヴェットは、
ワシントンDCで開かれる授賞式に出席するべく、家出を決意する。
数々の危険を乗り越え、様々な人々と出会うスピヴェット。
何とか間に合った受賞スピーチで、
彼は<重大な真実>を明かそうとしていた――。
***
自分の人生を見つけるために、家出を決意したスピヴェット。
彼のような天才でも、外の世界に飛び出して誰かと関わらないことには、
自分の良さを客観的に捉えられない。
そういう意味で本作は、特別な人の話なんかではなく、
誰でも共感できる物語、人生の真理なのではないでしょうか。
この天才くんを演じるのは、本作が長編映画デビューとなるカイル・キャトレット。
7歳のときから子役として活動を始めた彼は、なんと6か国語が話せます。
しかもマーシャルアーツ選手権で、7歳以下の世界チャンピオンに
3年連続で輝いた経歴を持つ、文武両道のスーパーキッズなのだから驚きです。
まさに適役。本物の天才。
それにしても、生き方に影響を与えるほどの出会いなんて、
どこに転がっているのか、本当によくわからない。
だからこそ人生は面白いわけだし、
思いの外、そのあたりにゴロゴロ転がっているかもしれない。
願わくば、そんな素敵なタイミングを逃さないよう、
心は常にオープンにしておきたいものです。世界中の映画を鑑賞しながら。
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『天才スピヴェット』
DVD 1,143円(税抜)
発売中
発売・販売元:ギャガ
(C) 2013 ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINÉMA
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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