ここ数日、冬本番といった寒さの日が続き、心が躍ります。
毎朝ランニングをしている井の頭公園では、
朝方に霜が降りていたり、
日によっては池が凍りついていたりと、
美しい冬景色が楽しめます。
また電車などでは、冬の澄んだ空気のおかげで、
富士山を目にすることも増えてきました。
こうなると、積極的に冬を楽しもうという気持ちが湧いてくるもので。
行きつけの喫茶店では、
いつものコーヒーではなく、季節限定のラム入りホットココアを頼み、
居酒屋を選ぶ際は、
熱々のあら汁が飲みたいがために、魚介系の酒場を選びがち。
また数年ぶりに、冬仕様のコートを購入しようと、
今さらながらいろいろなお店を探し回っています。
心も体もあったまる。
"寒さ"があるおかげで、僕たちはぽかぽかした感覚が楽しめるわけです。
雪景色の露天風呂のように。
今回ご紹介する映画『世界で一番しあわせな食堂』も、
あえて極寒の日を選んで観ていただきたい、まさに暖をとれる一作です。
観賞後はじーんと暖かな気持ちになれること間違いなし。
内容は、こんな感じとなっています。
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フィンランド北部の小さな村にある食堂へ、
上海から料理人チェンとその息子がやって来た。
恩人を探していると言うが、知る人は誰もいない。
食堂を経営するシルカは、チェンが食堂を手伝う代わりに、
恩人探しに協力することとなる。
恩人探しが思うように進まない一方で、
チェンが作る料理は評判となり食堂は大盛況。
次第にシルカ、そして常連客とも親しくなっていくチェンだったが、
観光ビザの期限が迫り、帰国する日が近づいてくる―――
***
この映画の良さは、
"悪人"が存在していないということに尽きるかなと思います。
物語上の衝突はあっても、それぞれに理由があってのこと。
ダマされたりもしないし、脅されたりもしない。
物語をドラマティックに進めるために誰かが悲惨な目に合う、
という映画ではないのです。
展開を楽しむのではなく、雰囲気に酔いしれる。
そんなタイプの映画のため、
キーになるのは雰囲気を作り上げるためのディテールとなってきます。
音楽は、フィンランドと中国のフュージョン。
アコーディオンと二胡をベースにしたオリジナル楽曲に加え、
主役のチェンも中国の有名な曲を歌いあげます。
一方、ダンスシーンでは「これぞ、フィンランド」
といったタンゴが使われたりもします。
そして、チェンの作る料理の美味しそうなこと!
でも、この食事を映像的な見栄えだけでなく、
異文化交流に繋げた脚本が何ともお見事でした。
そもそも村人たちは、まともに中国人と話したことなどなく、
中国料理を食べることも初めてなんですね。
またチェンも、ラップランドでは中国料理の食材を手に入れることはできず、
地元で捕れる魚やトナカイの肉などを使って料理を作ります。
お互い、はじめは戸惑い、コミュニケーションもうまくいきませんが、
ゆっくりと打ち解け、古くからの友人のように仲良くなっていきます。
分断が進む世界に向けた、平和で温かなメッセージ。
こういったディテールを積み重ねたことが、
作品全体のピースフルな空気を生み出し、
観客の心を癒すことができたのだと思います。
監督は、フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキのお兄さん、ミカ・カウリスマキ。
様々な国で暮らした経験を持ち、
人間愛に溢れるミカだからこそ創ることのできた作品かもしれません。
そんな、北欧から届いた心温まる"ヒーリング・ムービー"。
寒い週末に、ぜひ。
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『世界で一番しあわせな食堂』
DVD 4,180円(税込)
発売・販売元:ギャガ
©Marianna Films
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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