今日は『アルファヴィル』という映画の話から
スタートしようと思います。
みなさんご存じでしょうか?
こちら、1965年に作られたジャン=リュック・ゴダール監督
唯一のSF作品になります。
「殺人許可をもつ諜報員レミー・コーションは
銀河帝国の首都アルファヴィルに単独潜入するが、
そこの住民は人間性を奪われていた。」
この近未来の話をゴダールは、特撮やセットを一切使わず、
パリの街並みだけを使って描いていきます。
コントラストの強いモノクロ映像と極端なアングルを駆使して、
現実感を無くす。
そのようにして表現された世界は、僕たちの知っているパリではなく、
紛れもない架空都市アルファヴィルになっているのです。
CGを多用する映画よりも、よっぽど深い画作り。
そして、このありものの建築物でSFを作るというスタイルは、
予算をかけられない野心的な映画人に
結果的に、大きな希望ともなったのです。
(『惑星ソラリス』では、東京の首都高を未来世界に)
そのDNAを受け継いだ作品のひとつが、今回ご紹介する『ガタカ』。
『アルファヴィル』から30年以上経った、
1997年に作られた名作SF映画は、こんなお話です。
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DNA繰作による優秀な遺伝子を持った"適正者"によって、
自然な出産で生まれた人間が"不適正者"として支配される近未来。
不適正者として生まれたビンセントは宇宙飛行士を夢見ていたが、
それは不適正者ではかなわぬ夢だった。
しかし、彼は自分の運命を変えるため
DNAブローカ一の紹介でジェロームという青年の適正者IDを買い取る。
ジェロームになりすまして宇宙局ガタカの局員となったビンセントは
ついにタイタン探査船の航海士に選ばれる。
だが出発間近に上司が何者かに殺された事件で
ビンセントの髪の毛が発見された事から、正体発覚の窮地に立たされる。
ビンセントの素性に疑いを抱く女性局員アイリーン。
更にエリート捜査官となった弟のアントンの介入で、
彼はますます窮地に追い込まれる…
***
このストーリーの舞台となる宇宙局ガタカの建物というのが、
かの名建築家フランク・ロイド・ライトが晩年に設計した
「マリン郡庁舎」なのです。
あまりにも贅沢な映画セット。
円と曲線が印象的なこの斬新なデザインは、
レトロフューチャー感を強く感じ、
宇宙関連施設にふさわしい佇まいに収まっています。
とにかく、めちゃくちゃ、かっこいいのです。
きっとアンドリュー・ニコル監督は
撮影許可が下りたとき、狂喜乱舞したことでしょう。
この名建築は、ただの建物ではなく、
イーサン・ホーク&ユマ・サーマンに並ぶ、
主人公のひとりといっても過言ではないかと思います。
そのライトにとって、最大のインスピレーションになったのは
「無駄なものを省く」という日本の美意識だったそうです。
間の取り方、空間の演出、自然との調和など、
全体的に日本的な空間設計を取り入れている。
そんなことを聞くと、同じ日本人として嬉しくなっちゃいますよね。
ぜひ、最高の物語と名建築のコラボレーションを
存分にお楽しみいただければと思います。
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『ガタカ』
Blu-ray 2,381円(税抜)
DVD 1,410円(税抜)
発売中
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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