キノ・イグルーの週末シネマ​ no.52
言の葉の庭|しとしと、心に潤いを雨の映像美に浸のカバー画像

言の葉の庭|しとしと、心に潤いを雨の映像美に浸る

文:キノ・イグルー 有坂塁

言の葉の庭|原作・脚本・監督:新海誠(2013年・日本)

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2018年06月15日作成



雨と映画といえば、真っ先に黒澤明監督を思い出します。

彼は、誰も動かない場面でも背後に雨を降らせて、絵に動きを出したりと、

雨を効果的に使って、観客の心を揺さぶります。


そんな中でも、代表作『七人の侍』のクライマックス、

侍と野武士による雨の合戦シーンは、

いまや伝説として語り継がれています。


なんと監督は

「村全体に豪雨を降らせろ!水の中には"墨"を混ぜろ!」

という驚きの指示をスタッフに出します。

雨は透明なためフィルムで認識しづらい。

そこで雨の色を濃くして決闘に迫力を出したい!

という監督のこだわり、いや、執念です。


ぬかるみだらけでの撮影は、

出演者5人が骨折するなどケガ人続出だったそうですが、

結果、映画史に残る屈指の名シーンとなったのです。


そして今回ご紹介する『言の葉の庭』。

こちらもベクトルこそ違いますが、黒澤監督に負けず劣らず、

雨にこだわり抜いた逸品となっているのです。


***


靴職人を目指す高校生タカオは、雨が降ると学校をさぼり、

公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。

そんなある日、タカオは謎めいた年上の女性ユキノと出会い、

2人は雨の日だけの逢瀬を重ねて心を通わせていく。

居場所を見失ってしまったというユキノのために、

タカオはもっと歩きたくなるような靴を作ろうとするが…


***


ふたりの淡いラブストーリーを表現する上で、

雨は必要不可欠と新海誠監督は語っています。

雨そのものを「3人目のキャラクター」とまで言うほどに。

そしてアニメーション史上、前例のない雨のシーンが生まれたのです。


通常、アニメにおいて雨の描写は、ほとんどが同じ雨粒をリピートします。

なぜなら書き分けようとすると、手間がかかりすぎるから。

しかし本作の場合、雨粒の大きさが不揃いなだけでなく、

水たまりの雨の波紋の大きさまで書き分けている。

しかも雨の降らせ方も、土砂降り、小雨、天気雨、横殴りの雨という、

驚きのこだわりよう。


これはもう、黒澤監督に匹敵する、新海監督の執念です。

でも、そこを妥協しなかったおかげで『言の葉の庭』は、

アニメでしか表現し得ない極上のラブストーリーに仕上がったわけです。


ありがとう、新海監督。スタッフのみなさん。


本作を鑑賞したあとは、聖地巡礼もしてみてください。

あの印象的な公園は、新宿御苑です。

雨の日に訪れると、どれだけリアルにこだわったかが、

肌感覚でわかると思うので、梅雨の時期にぜひ。

BGMは、もちろん秦基博の「Rain」で。


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「劇場アニメーション『言の葉の庭』 DVD」
DVD 発売中
3,520 円(税抜価格 3,200 円)
発売元:コミックス・ウェーブ・フィルム
販売元:東宝
©Makoto Shinkai / CoMix Wave Fil

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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