キノ・イグルーの週末シネマ​ no.225
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運動靴と赤い金魚|風を切って走りたい!全力疾走する姿が美しい映画

文:キノ・イグルー 有坂塁

運動靴と赤い金魚|監督・脚本:マジッド・マジディ(1997年・イラン)

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2021年10月08日作成



毎朝ランニングはしているけれど、

全力疾走となると、最後にしたのっていつになるんだろう。


サッカーから離れて以来?

だとすると、ぼくは20年以上も全力疾走してないわけで。

人生の半分近くと考えると、

いやー、訳もなくおそろしい気分になってきます。

心身の面など、大丈夫なのかな。


体のためにも、時には全力で負荷をかけてあげた方がいいのでしょうか?

心のためにも、ダッシュしているときのゾーンに入ったような状態を作ってあげた方がいいのでしょうか?

今回のお題をいただいて以来、そんなことばかり考えています。


さて。

映画の中にも心に残る全力疾走シーンは、いくつもありますが、

みなさんのお気に入りは、どの映画の、どのシーンでしょうか。


ぼくが好きなのは、

『汚れた血』(1986) のデヴィッド・ボウイの曲がかかるシーンと、

その場面にオマージュを捧げた『フランシス・ハ』(2012)。

それに『ロッキー2』(1979)のトレーニングシーン、

『ヒミズ』(2011) のラストなどです。


今回ご紹介する『運動靴と赤い金魚』は、

妹思いの健気な男の子の全力疾走が楽しめる作品となっています。


1997年に作られたイラン映画。


まずは内容からご確認ください。


***


貧しい暮らしを送る9歳の少年アリは、

修理してもらったばかりの妹の靴をなくしてしまう。

親にも言い出せず、自分の靴を妹と交代で履くことに。

まずは妹が靴を履いて登校し、

下校途中に交代してアリが急いで登校するのだが、

遅刻してばかりでなかなか上手くいかない。

そんなある日、

小学生のマラソン大会の3位の賞品が運動靴だと知ったアリは、

妹のために3位を目指し必死で走るが…


***


同じ映画でも、ハリウッドの超大作とは正反対で、

些細な日常を、控えめなアプローチで描いた作品となっています。

小粒でシンプルなストーリー。

しかし、描かれる世界は小さくとも、メッセージには普遍性があって、

国籍・人種を問わず、ワールドワイドに共感性の高い内容となっているのです。


何といっても、すべてが素朴。

少年のどうしたらいいかわからない絶望した泣き顔も、

かわいい妹がお兄ちゃんを待つシーンも、一生懸命に走る姿も。


少年は、必死になって先生に出場を懇願します。

すべては、妹のザーラに運動靴をプレゼントしてあげるために。


毎日全速力で走っていたこともあって、かなり足が速くなっていた彼ですが、

目指すのは優勝ではなく、あくまでも3位なんですね。

ここがいい! 勝てるけど、勝っちゃいけない。

ここに小さなサスペンスが生まれます。

そして、大きな事件を描かずとも、

"ハラハラドキドキ"は生み出せるという

映画作りのお手本のようなシーンにもなっているのです。

さて、結果やいかに!?


兄妹愛。家族愛。

大きな愛が包み込んでくれる安心感の中で、

しっかりと、現実の厳しさも描いている。

そのバランス感覚が、とっても素敵な作品だなと思います。


イラン映画としては、初のアカデミー外国映画賞の候補となり、

モントリオール世界映画祭ではグランプリを含む4部門を受賞した、

90年代のアジアを代表する名作。


お子さんの反応を確かめながらの鑑賞もオススメです。


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『運動靴と赤い金魚』
Blu-ray 2,075円(税込)
DVD 1,572円(税込)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2021年10月の情報です。

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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