毎朝ランニングはしているけれど、
全力疾走となると、最後にしたのっていつになるんだろう。
サッカーから離れて以来?
だとすると、ぼくは20年以上も全力疾走してないわけで。
人生の半分近くと考えると、
いやー、訳もなくおそろしい気分になってきます。
心身の面など、大丈夫なのかな。
体のためにも、時には全力で負荷をかけてあげた方がいいのでしょうか?
心のためにも、ダッシュしているときのゾーンに入ったような状態を作ってあげた方がいいのでしょうか?
今回のお題をいただいて以来、そんなことばかり考えています。
さて。
映画の中にも心に残る全力疾走シーンは、いくつもありますが、
みなさんのお気に入りは、どの映画の、どのシーンでしょうか。
ぼくが好きなのは、
『汚れた血』(1986) のデヴィッド・ボウイの曲がかかるシーンと、
その場面にオマージュを捧げた『フランシス・ハ』(2012)。
それに『ロッキー2』(1979)のトレーニングシーン、
『ヒミズ』(2011) のラストなどです。
今回ご紹介する『運動靴と赤い金魚』は、
妹思いの健気な男の子の全力疾走が楽しめる作品となっています。
1997年に作られたイラン映画。
まずは内容からご確認ください。
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貧しい暮らしを送る9歳の少年アリは、
修理してもらったばかりの妹の靴をなくしてしまう。
親にも言い出せず、自分の靴を妹と交代で履くことに。
まずは妹が靴を履いて登校し、
下校途中に交代してアリが急いで登校するのだが、
遅刻してばかりでなかなか上手くいかない。
そんなある日、
小学生のマラソン大会の3位の賞品が運動靴だと知ったアリは、
妹のために3位を目指し必死で走るが…
***
同じ映画でも、ハリウッドの超大作とは正反対で、
些細な日常を、控えめなアプローチで描いた作品となっています。
小粒でシンプルなストーリー。
しかし、描かれる世界は小さくとも、メッセージには普遍性があって、
国籍・人種を問わず、ワールドワイドに共感性の高い内容となっているのです。
何といっても、すべてが素朴。
少年のどうしたらいいかわからない絶望した泣き顔も、
かわいい妹がお兄ちゃんを待つシーンも、一生懸命に走る姿も。
少年は、必死になって先生に出場を懇願します。
すべては、妹のザーラに運動靴をプレゼントしてあげるために。
毎日全速力で走っていたこともあって、かなり足が速くなっていた彼ですが、
目指すのは優勝ではなく、あくまでも3位なんですね。
ここがいい! 勝てるけど、勝っちゃいけない。
ここに小さなサスペンスが生まれます。
そして、大きな事件を描かずとも、
"ハラハラドキドキ"は生み出せるという
映画作りのお手本のようなシーンにもなっているのです。
さて、結果やいかに!?
兄妹愛。家族愛。
大きな愛が包み込んでくれる安心感の中で、
しっかりと、現実の厳しさも描いている。
そのバランス感覚が、とっても素敵な作品だなと思います。
イラン映画としては、初のアカデミー外国映画賞の候補となり、
モントリオール世界映画祭ではグランプリを含む4部門を受賞した、
90年代のアジアを代表する名作。
お子さんの反応を確かめながらの鑑賞もオススメです。
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『運動靴と赤い金魚』
Blu-ray 2,075円(税込)
DVD 1,572円(税込)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2021年10月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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