キノ・イグルーの週末シネマ​ no.161
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聖者たちの食卓|香りが漂ってきそう!おいしいカレーを召し上がれ

文:キノ・イグルー 有坂塁

聖者たちの食卓|監督:フィリップ・ウィチュス、ヴァレリー・ベルト(2011年・ベルギー)

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2020年07月17日作成



ここ10年近くでしょうか、カレーがとにかく流行っています。


銀座の「ナイルレストラン」や

神保町「ボンディ」などの老舗も変わらず元気ですし、

サクッと食べれられる「カレースタンド」、

密かなブームを起こしている「間借りカレー」や、

神出鬼没な「流しのカレー屋」、

さらに名店が監修したレトルトカレーと、

まるで2000年代に巻き起こったカフェブームのごとく、

様々なスタイルのカレー屋を楽しめる環境となってきています。


中でも人気なのが、ニューウェーブ系です。

"南インド""スリランカ""大阪スパイスカレー"など、

これまで見かけることの少なかった個性派カレーたち。

これらのお店のほとんどは個人店なため、仕込み量は少なく、売り切れ御免。

平日、休日ともに行列は当たり前ですが、

それでも食べたい!と思わせる魔法のようなおいしさが味わえるのです

(そして見た目もだいたい美しい!)


なんて、熱く語ってしまいましたが、何を隠そうぼくも大のカレー好き!

インスタグラムで《#有坂塁のカレパト》というカレープロジェクトもやっているので、

暇なときにでも見てもらえたら嬉しいです

(過去に訪れた200店以上の情報が見られます!)


そんなカレーを愛してやまないぼくが、

最も衝撃を受けたと言ってもいいカレー映画が

『聖者たちの食卓』です。インド映画です。

毎日10万食分の豆カレーをまかなう「無料食堂」の舞台裏を記録した

65分のドキュメンタリー作品。


内容はこんな感じになっています。


***


インドのシク教総本山にあたる寺院ハリマンディル・サーヒブ「黄金寺院」では、

人種や階層に関係なく、巡礼者や訪問者に食事が無料で提供されている。

毎日約10万食におよぶという、その大量の食事がどのように用意されているのか、

飽食の時代にあって無駄のない支度の様子や、調理、後片付け、

巡礼者たちがひとつの家族になったかのような食卓の風景も映し出し、

人々が公平に満たされることで心穏やかになる世界や、

無償で働く人々の厳かな存在を描き出していく。


***


カレーを作って、食べて、片付ける。

このシンプルな行為を、一度に5000人で行なっている、ただそれだけの映像です。

でも、その光景は、ただただ圧巻。


大人数が各パートに分かれて、大量の野菜を刻み、小麦粉をこね、

チャパティを焼き、巨大な鍋でカレーを煮込む。

人々は言葉を交わさず、淡々と、システマティックに作業に勤しんでいます。


カレーの完成に合わせて集まってくる、宗教も階級も異なる人たち。

あらゆる差別や偏見を気にせず、テーブルを囲み、

同じ鍋のごはんをいただく"大きな団らん"。

その周辺を、籠にチャパティを盛った人や

おかずの入ったバケツを手にした人が歩き回り、

希望者へとどんどん配ります。おかわりは自由。

みんな無言で食べているという、なんとも不思議な光景。


そこから漏れ聞こえてくる"音"が、

この映画の見どころと言ってもいい特徴のひとつです。


食器が擦れ合う音、水が流れる音、トントントンと野菜を刻む音。

この映画自体に、セリフやBGM、ナレーションが入っていないため、

自然と、生活音や環境音などの"音"に、

耳が鋭く反応していることに気がつくはずです。

その音が、何とも心地よくて。


そして、ありのままの"日常"を切り取ったからこそ、

等身大のインドの民俗文化や信仰生活が、とても生々しく感じられるのです。


三密NGなコロナ禍で、

超濃密な「無料食堂」が今どうなっているのか心配ですが、

500年以上も受け継がれている伝統があるのだから、

きっと大丈夫。絶対大丈夫!


圧倒的な音と色と景色が拡がる豊潤な65分間を、

ただただ心で受け止め、何かを感じ取ってみてください。

手づくりの豆カレーと一緒に。


************************************************
『聖者たちの食卓』
DVD 2,800円(税抜)
発売中
販売元:アップリンク

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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