世の中は、「まるで映画みたい」と言われるような物語で溢れていますが、
今回は絶対に遭遇したくない"ある実話"を元にした
ミステリーを紹介したいと思います。
クリント・イーストウッド監督作『チェンジリング』。
1920年代のアメリカ・ロサンゼルスで起こった、あまりにも衝撃的な事件。
その詳細は後ほど記しますが、
まあ衝撃というだけあってヘビーでシリアスな内容となっています。
「シリアスかぁ……」
というため息が聞こえてきそうですが(笑)、
ぜひともそういうタイプの方にも観てもらいたく、選んでみました。
本作は、作品としての"完成度"が圧倒的に高く、
それは傑作揃いのイーストウッド映画の中でも
トップレベルとも言えるクオリティです。
映像、美術、脚本、展開、構成、演出の全てが一体化した
文句のつけようがない仕上がりで、
上質な映画を観たな〜!という満足度が残る一作となっています。
どんな映画なのか?
まずは土台となるストーリーからご確認ください。
***
1928年。
ロサンゼルスの郊外で、9歳の息子・ウォルターと幸せな毎日を送る、
シングル・マザーのクリスティン。
だがある日突然、クリスティンの勤務中に、
家で留守番をしていたウォルターが失踪。
誘拐か家出か分からないまま、行方不明の状態が続き、
クリスティンは眠れない夜を過ごす。
そして5か月後。
警察から息子が発見されたとの朗報を聞き、
クリスティンは念願の再会を果たす。
だが、彼女の前に現れたのは、最愛のウォルターではなく、
彼によく似た、見知らぬ少年だった――
***
はい、いかがでしょうか?
タイトルにもなっている『チェンジリング』は"取り替え子"という意味で、
人間の子を連れ去る代わりに、人ならぬものの子を置き去りにしていく、
ヨーロッパの伝承から付けられたそう。
はい、怖い。
子を持つ親としては、ホラー映画のような設定です。
でもここに記した内容は、
物語の起承転結の "起"であって、あくまで冒頭部分になります。
ここからの展開こそがスゴいんです!
ほんの偶然から判明する、驚愕の事実…
って、書いてるだけでゾクゾクしてきます。
そしてこれは観賞後に知ったことなのですが、
劇中で描かれる信じられないようなエピソードのほとんどは、
脚色ではなく"事実"だったのだそう!
実話の映画化といえども、
通常はドラマティックに脚色することがほとんどなので、
今回のようなケースは異例です。
主演を務めたアンジェリーナ・ジョリーも、
「これがフィクションだったら、出来すぎてる話として映画化はされない」
と語るほど。
そんな題材を名匠クリント・イーストウッドが監督したのだから
面白いに決まってます。
物語に関しては、ぜひこれ以上の情報は入れずにチャレンジしてみてください。
もう一点、作品としての注目ポイントは、
1920年代のクラシカルなファッション。
特にアンジーの衣装は、何から何まで魅力的なんです。
ローウエストのワンピースに釣り鐘型の帽子、
ストラップシューズ、皮の手袋といった、
この時代らしいフォーマルな装いをベースに、
印象的な真っ赤な口紅も含めたトータルコーディネートを、
全編で楽しむことができます。
そう、ヘビーな映画にはめずらしく、おしゃれでもあるのです。
ファッショナブルで、愛情深いシングルマザーを好演したアンジーは、
アカデミー主演女優賞に初めてノミネートされます
(『17歳のカルテ』のとき獲得したのは助演女優賞)
惜しくも受賞こそ逃しましたが、
個人的には賞を獲得したケイト・ウィンスレット(『愛を読むひと』)より
何倍も、何十倍もよかったと、今でも思っています。
今年の夏は"きもだめし"の代わりに、
ぜひ、この傑作ミステリーでゾワっとした体験をお楽しみください。
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『チェンジリング』
Blu-ray: 2,075 円 (税込)/ DVD: 1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2022年6月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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