おぼろげになってくる思春期の記憶。
いま考えると、どうしてあれほど傷つきやすく、生きづらかったのか。
思い出そうと試みても、前世の出来事に近い感覚のため、実感が伴いません。
しかし、そんな当時の感情を
"映画"が一瞬にして呼び覚ましてくれることがあります。
あの頃の多感な自分と同じように、こじらせまくっている主人公。
心当たりのある感情や言動に、心がざわめいて仕方ない120分。
ここ10年ほどで、そういった類の青春映画が急増したような気がします。
アメリカなら、『スウィート17モンスター』『レディバード』。
ヨーロッパは、『シング・ストリート』『裸足の季節』。
日本だと、『勝手にふるえてろ』『桐島、部活やめるってよ』。
いずれも傑作です。心から観てもらいたい作品ばかり。
そして2018年。
新たに韓国映画界から、鮮烈な青春映画が誕生しました。
その名は、『はちどり』。
初長編となるキム・ボラ監督の少女時代の体験をもとに描き、
韓国では単館公開ながら異例の大ヒットを記録。
ベルリン国際映画祭を始め、世界各地の映画祭でも50以上の賞を受賞した
歴史に残る韓国映画になります。
物語は、こんな感じ。
***
1994 年、ソウル。
家族と集合団地で暮らす14歳のウニは、
学校に馴染めず、 別の学校に通う親友と遊んだり、
男子学生や後輩女子とデートをしたりして過ごしていた。
両親は小さな店を必死に切り盛りし、
子どもたちの心の動きと向き合う余裕がない。
ウニは、自分に無関心な大人に囲まれ、孤独な思いを抱えていた。
ある日、通っていた漢文塾に女性教師のヨンジがやってくる。
ウニは、 自分の話に耳を傾けてくれるヨンジに次第に心を開いていく。
ヨンジは、 ウニにとって初めて自分の人生を気にかけてくれる大人だった。
ある朝、ソンス大橋崩落の知らせが入る。
それは、いつも姉が乗るバスが橋を通過する時間帯だった。
ほどなくして、ウニのもとにヨンジから一通の手紙と小包が届く…
***
14歳の少女の目を通して映し出される、当時の韓国の歪な姿。
1994年が舞台ということで、
いまよりもさらに家父長制や学歴至上主義がはびこる時代になるのですが、
これって「#MeToo」や「パワハラ」といった
現代の問題と地続きな話ですよね。
こういった社会問題は、巡り巡って、
思春期の若者の心に大きな影響を与えてしまいます。
生活習慣の乱れなどで、心の健康問題に発展しやすい。
『はちどり』が素晴らしいのは、
この"社会と個人"の関係性を鋭く描きながらも、
決して突き放すのではなく、あたたかさを持って描いている点になります。
主人公ウニは、家族仲があまり良くなく、
各々の心の内もよくわかっていません。
おまけに自分の感情さえも理解できていないから、
まさに八方塞がりの状態。
でも孤独を感じているからこそ、
少しの優しさでも嬉しさが顔に出てしまうし、
自分に向けられた誰かの言葉が染み入るわけです。
そんな風にして、ウニの心の変化を丁寧に紡いでいき、
美しい映像とともに観せてくれる、とても上品な作りとなっています。
"韓国のアカデミー賞"と言われる韓国青龍賞では、
あの『パラサイト 半地下の家族』を抑え、最優秀脚本賞を受賞。
同年代の女性からも多くの共感を呼んだ、
10代の感受性が宿る、鮮烈のデビュー作。
ぜひこの週末に、いかがでしょうか。
************************************************
『はちどり』
DVD 4,180円(税込)
DVD&Blu-ray 発売中
発売元:アニモプロデュース
販売元:TCエンタテインメント
提供:アニモプロデュース、朝日新聞社
©2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site