自分の感覚に合う。声をあげて笑う。気持ち良く感動できる。
このように"共感"をベースに映画を観ている人って多いと思います。
実際にぼくも19歳で映画に目覚めて以降しばらくは、
そのような見方をしていました。
しかし映画好きには、やがて避けて通ることのできない
"巨大な作品"と出会う瞬間というものがやってきます。
好き嫌いを超えてしまうレベルのすごいやつに。
それが人によっては『ゴッドファーザー』(1972) だったり、
空前絶後の大河ロマン『風と共に去りぬ』(1939) になったりするわけですが、
そんな中、作品を超えて話題にあがるひとりの"監督"がいます。
鬼才。完璧主義。リテイク50回は当たり前。
「映画史において最も偉大であり、後世に影響を与えた監督」
とまで言われている、スタンリー・キューブリックです。
みなさん、ご存知でしょうか?
この人がスゴイのは、
先に挙げたような"巨大な作品"が1本ではないんです。
以前ここでも紹介した『2001年宇宙の旅』をはじめ、
モダンホラーの金字塔『シャイニング』や、
ミッキーマウスマーチが印象的な戦争映画『フルメタル・ジャケット』、
そして最もよく名前が挙がるのが、
ウルトラバイオレンスと悪名高い『時計じかけのオレンジ』なのです。
いつものように物語を綴ると、
観てもらえない可能性が高くなるかもしれませんが、
勇気を出して書いてみようと思います。
***
暴力とベートーヴェンの音楽だけが生きがいのアレックス率いる不良少年たちは、
老いた浮浪者を袋叩きにした後、ライバル・グループに殴り込みをかけて大乱闘。
さらに郊外の邸宅に押し入り、
その家の主人アレクサンダーの眼の前で夫人の衣服を切り裂き、暴行に及んだ。
こうして一晩は終わり、
アレックスは愛するベートーヴェンの交響曲第九番を聴きながら
幸福な眠りにつくのだったが…
***
いかがでしょう?
やっぱり観る気なくなりましたよね?笑
でもそれが、普通の反応だと思います。
にもかかわらず、この作品が人の心を惹きつけてやまないのは、
その圧倒的な世界観に他なりません。
雑誌のインテリア特集でも取り上げられることの多い、
サイケデリックなミルク・バーは、
至るところに白い裸の女性像が飾られています。
この開脚して重なった女性の像は、オブジェではなく、
じつはテーブルになっています。
不良少年のファッションは、山高帽に真っ白な洋服、
手にはステッキを持ち、片目だけのつけまつげという個性的ないでたち。
彼らはそのお揃いのユニフォームを身にまとい、
『雨に唄えば』の主題歌を口ずさみながら暴行をはたらくのです。
音楽も、ベートーヴェンの「第九」や
ロッシーニ「ウィリアム・テル序曲」などのクラシック曲を使用し、
映像とのギャップから不気味さを助長させることに成功しています。
そしてトドメは、「シンメトリー(左右対称)」の画面作り。
これはもはやキューブリックの代名詞と言ってもいいテクニックです。
"左右対称"の構図を作ることで、観ている人の不安感を煽る。
いつもと同じようで、何かが違うという違和感。
完璧って怖いものなのです。
このように様々なアイデアをもって、
唯一無二の世界を作り出してしまう鬼才キューブリック。
勇気がいるとは思いますが、
それでもあえて、この"巨大な作品"にチャレンジしてみて、
自分の世界を広げてみるのも、決して悪いことではない気がします。
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『時計じかけのオレンジ』
Blu-ray 2,381円+税
DVD 1,429円+税
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 1971/Renewed © 1999 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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