浅葉克己とモード・ルイス。
この数年で気になった2人のインスピレーション源について、
今回は書いてみようと思います。
2019年に六本木・21_21 DESIGN SIGHTで開催された
「ユーモアてん。/SENSE OF HUMOR」は、みなさん行かれたでしょうか?
こちらは、1960年代から広告界を牽引する
アートディレクターの浅葉克己さんご自身による
"インスピレーション源"だけを集めたユニークな展覧会。
そこには、世界各国のデザイナーやアーティストの作品が大集結。
パッと思い出せるものでいうと、
無名時代の日比野克彦さんによる巨大なダンボール作品、
和田誠さんの似顔絵、福田繁雄さんの「使えない食器」シリーズ、
そして卓球好きの浅葉さんらしく、
実際に遊べるおしゃれな卓球台などが展示されていました。
グラフィックデザインを通して人々を楽しませ続けてきた
浅葉さんのユニークな頭の中を覗いているような気分になれる素敵な企画。
浅葉さんのインスピレーション源は、ズバリ"物"でした。
対して画家のモード・ルイスは、
身近にある自然や動物、
ありふれた風景などをインスピレーション源としていました。
というよりも、彼女の場合はインスピレーション源を求めていたわけでなく、
心のままに生きて、ただ好きな絵を描いていただけかもしれません。
そんな自然体な画家の人生を描いた映画
『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』を、
今回はご紹介したいと思います。
***
カナダの小さな港町で叔母と暮らすモードは、絵を描くことと自由を愛していた。
ある日モードは、魚の行商を営むエベレットが家政婦募集中と知り、
自立のため、住み込みの家政婦になろうと決意する。
幼い頃から重いリウマチを患い厄介者扱いされてきたモードと、
孤児院育ちで学もなく、生きるのに精一杯のエベレット。
はみ出し者同士の同居生活はトラブル続きだったが、
徐々に2人は心を通わせ、やがて結婚。
一方、モードの絵を一目見て才能を見抜いたエベレットの顧客サンドラは、
彼女に絵の創作を依頼。
モードは期待に応えようと、夢中で筆を動かし始める。
そんな彼女を不器用に応援するエベレット。
いつしかモードの絵は評判を呼び、
アメリカのニクソン大統領からも依頼が来て…
***
素朴派の画家として、いまなおカナダで愛されるモード・ルイスは、
美術教育を受けたことはなく、独学で絵を描き続けていたそう。
本作はそんな彼女の、日常と創作に秘密に迫る内容となっています。
僕はこの映画を通して彼女の存在を初めて知りましたが、
どこかグランマ・モーゼスにも通じる作風だなあと感じました。
シンプルな線とカラフルな色彩。
素朴で温かみがあって、懐かしさを感じる。
でもグランマより、ちょっとだけ大胆で愛らしさがあるのが、
モードの特徴かもしれません。
身近にある草花や動物など、ありふれたものをモチーフに。
さらに住んでいた家全体が、モードの作品になっていて、
壁だけでなく、扉や雨戸、薪ストーブからティーポットまで、
あらゆるものが彼女のキャンパスになりました。
この映画の良さは、そういった楽しい制作プロセスを
映像で観せてくれるところにあります。
モードの見ていた世界、興味のあった世界を、どのように絵に落とし込むのか。
そんな創作のルーツを、素朴かつ、
かわいいビジュアルで観せてくれるのだから言うことなしです。
おまけに。
最初は色褪せた生活を送っていたエベレットの中にモードが入ってきたことで、
彼の生活に少しずつ明るさや楽しさが芽生えてくるところがまた素晴らしい!
彼女の喜びが、彼の幸せになる。
『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』は、
理想的な夫婦の物語でもあるのです。
この夏の1本に、ぜひ。
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『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』
DVD 4,180円(税込)
好評発売中
発売・販売元:松竹
©2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.
※2021年8月時点の情報です
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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