ここ10年、「好きな映画監督は?」という質問をすると、
よくあがってくる名前に是枝裕和がいます。
(海外ならウェス・アンダーソン『グランド・ブダペスト・ホテル』や、ジョン・カーニー『シング・ストリート』)
周知の通り『万引き家族』でワールドワイドな評価を得た是枝監督ですが、
元はというとテレビドキュメンタリー出身のインディペンデント系監督。
そこから『誰も知らない』のカンヌ主演男優賞をきっかけに名前を知られるようになり、
『歩いても歩いても』のロングラン上映、
そして『海街diary』の大ヒットでファンを増やしていった印象があります。
人気のポイントは
"日本人の生活を丁寧に描ける"という部分になるでしょうか。
是枝さんの紡ぐ物語には、いつだって家族がいて、
母親が家族をつなぐ役割を果たします(父親はいろいろな意味で不在です)
そのときに大きなポイントになるのが"お母さんのごはん"。
物語をさらっと進めるのではなく、
きっちりとごはんのシーンに時間をかける。
それは団地が舞台となるホームドラマ『海よりもまだ深く』も同様でした。
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笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の中年男、良多。
15年前に文学賞を1度とったきりの自称作家で、
今は探偵事務所に勤めているが、
周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳している。
元妻の響子には愛想を尽かされ、
息子・真悟の養育費も満足に払えないくせに、
彼女に新恋人ができたことにショックを受けている。
そんな良多の頼みの綱は、団地で気楽な独り暮らしを送る母の淑子だ。
ある日、たまたま淑子の家に集まった良多と響子と真悟は、
台風のため翌朝まで帰れなくなる。
こうして、偶然取り戻した、一夜かぎりの家族の時間が始まるが…
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母・淑子を演じるのは、樹木希林さん。
彼女はどこの家庭でも食べていそうな日常料理を、息子家族に振るまいます。
メニューは、カレーうどん、筑前煮、とうもろこしのてんぷら。
中でも美味しそうなのが、カレーうどんです。
ひさしぶりに家族がひとつ屋根の下に集まったことを喜び、
母は自慢のカレーうどんを振るまいます。
残ったカレーに鰹だしをブレンドし、グリンピースや刻みネギを添える。
その熱々に煮込まれたおうどんのおいしそうなことよ!
良多は久しぶりの母の味に舌鼓を打ち、おかわりをせがむも、
じつは食べたカレーが半年も前に冷凍していたものだと分かり、ニガい顔をみせます。
食べものをとおして、家族の和やかな雰囲気さえも表現してしまう見事な演出。
こういった繊細さが是枝作品を支える人気の秘密かもしれません。
ちなみに本作のフードスタイリストは、『かもめ食堂』の飯島奈美さんです。
ジブリ飯という言葉があるように、
今後は是枝メシにも注目が集まるかもしれませんね。
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『海よりもまだ深く』
DVD<通常版> 3,800円(税抜)
Blu-ray<通常版> 4,800円(税抜)
発売・販売元:バンダイビジュアル
(C)2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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