「映画の良さって何?」
と言われるとあまりにもたくさんあるのですが、
やっぱり「非日常を体験し、"学び"に変えられる」
という部分は特に大きいかなと思います。
たとえば。
マット・デイモン主演の『幸せへのキセキ』からは
"20秒の勇気"を持つことの大切さを。
『アルマゲドン』などのディザスタームービーからは緊急時の決断力の重要さを。
ロマンスはどこに転がっているか分からないという素敵な事実は
『ローマの休日』や『ラブ・アクチュアリー』が教えてくれました。
映画を観ればみるほど、世界が豊かになり、
自分自身もカラフルになっていく。
その中にあって、個人的に大きな学びだったと思えるのが、
「他人への想像力」についてです。
ここは変わったなという実感が、すごくあります。
映画の主人公って、基本的に何か問題を抱えています。
社会に順応できない。ジェンダー問題で苦しんでいる。
幸せそうに見えるけどじつは心が空っぽ…
人は見た目では判断できないし、言葉も100%信用しちゃいけない。
ということを、僕はたくさんの映画から学びました。
裏側があって当たり前、
そもそも人間なんて多面的にできているものなのです。
そして、こういった複雑な人間を演じさせると、
無双なのがビル・マーレイ。
ウェス・アンダーソン映画でもおなじみなように、
彼の特徴は"何を考えているか分からない"という不思議な存在感です。
しかし『ヴィンセントが教えてくれたこと』は、
彼にしては、比較的わかりやすい役。
でも"能面"のようなビル・マーレイがその役を演じると、
味と深みがじわーっと加わり、
彼にしか生み出せない印象的な役に仕上がるのです。
これぞ、"知れば知るほど面白い人"。
ストーリーは、こんな感じになっています。
***
アルコールとギャンブルを愛する、嫌われ者の偏屈親父ヴィンセントは、
隣に引っ越してきたシングルマザーのマギーから、
彼女の仕事中に12歳の息子オリバーの面倒を見るよう頼まれてしまう。
嫌々ながらも引き受けたヴィンセントは、
行きつけのバーや競馬場にオリバーを連れて行き、
バーでの注文方法からいじめっ子の鼻のへし折り方まで、
ろくでもないことばかりを彼に教え込んでいく。
オリバーはそんなヴィンセントと反発しあいながらも、
一緒に過ごすうちに彼の隠された優しさや心の傷に気づいていく…
***
ビル・マーレイって、おじさんながらもチャーミング。
いつも飄々としていて、知らない間に心惹かれる不思議な魅力があります。
『ロスト・イン・トランスレーション』、『コーヒー&シガレッツ』、
『ライフ・アクアティック』、いずれも。
でも本作では、輪郭のはっきりしたキャラクターを演じています。
人嫌いで、周囲の人も彼のことが嫌い。
借金まみれで、酒におぼれ、冷たいギャグを飛ばし、
平気で物まで盗むという、絵に描いたようなダメ男。
でも悔しいことに、
そんなダメ男に僕たちは泣かされる羽目になってしまうのです。
物語も、とっても心地いい場所へと着地します。
もし、この強烈な役を、デ・ニーロやアル・パチーノが演じていたら、
アクが強すぎて、まったく異なった質感の映画になったかもしれません。
そういう意味でも、ナイスキャスティング!ですね。
そのビル・マーレイは、私生活を明かさないことでも有名で、
マネージャーやエージェントを立てていないどころか、
連絡を取るときは自動音声が応対する電話番号のみ
という、驚きのクセ者ぶり。
つまり"知れば知るほど面白い人"とは、
ビル・マーレイ本人のことを言うのです。
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『ヴィンセントが教えてくれたこと』
Blu-ray 4,700円+税
DVD 3,800円+税
発売元:キノフィルムズ
販売元:ポニーキャニオン
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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