1994年春の話から始めてみようと思います。
19歳からの2年間、ぼくは生まれ育った東京を離れ、石川県のサッカー専門学校へ通っていました。
プロを目指し、日夜練習に明け暮れるという毎日を過ごしていました。
一方、みな一人暮らしのため、空いた時間を使って映画を見ている人が多かった。
特にぼくの学年は映画好きが揃っていて、地方遠征のバス移動は必ず映画鑑賞です。
何を見るかは数人でレンタルショップへ行き、ああだこうだ言って決めます。
今考えると、その時間がとっても楽しかった。
結果、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ホーム・アローン』
『いまを生きる』『トップガン』などを鑑賞。
『グーニーズ』を見たときは、シンディ・ローパーの主題歌を大合唱したりもしたなあ。
ときは変わって、15年後、2009年9月の東京。
予定していた打ち合わせが急きょ飛んでしまったぼくは、
近くにあった映画館「ユーロスペース」で、
タイミングよく上映されてる映画を観ることにしました。
タイトルは『九月に降る風』…
***
台湾の新竹。学年も生活環境も異なる7人の男子高校生たち。
野球場で騒いだり、深夜の学校のプールに忍び込んで裸で泳いだり、屋上で弁当を食べたり、
大樹の下で無駄話をしながら悪ふざけをしたり…、彼らはいつも一緒だった。
そんな“問題児グループ”のリーダー格が、3年生のイェンだ。
生真面目な同級生タンは、そんなイェンを羨望と嫉妬の眼差しで見つめていた。
ところがある日、イェンとタンの間に微妙な感情の溝ができ、
そしてその関係修復も束の間、思いがけない事故が彼らの身に降り注ぐ…
***
他愛ない悪ふざけに無邪気に笑いあったり、
くだらない話で笑いが止まらなくなったり…
そんな誰もが経験したことがあるような、この時期特有の無敵な感じが
理屈を飛び越え、まっすぐ響いてきます。
しかも楽しいだけじゃなく、ほろ苦くて、せつない。
これぞ、青春。
ふと出来た空き時間で、
思いがけず、打ちのめされるような感動を味わうことができたのです。
上映後、旧友に電話をかけました。
10数年ぶりでしたが、番号は変わっていなかった。
彼は土木関係の会社を起業し、ぼくは移動映画館をやっている。
互いに環境は変わっても、声を聴いた瞬間、あの頃のあの感覚に戻ることができる。
それってとっても幸せなことじゃないか、そんなことを考える。
「まだ映画が好きだよ」と言った彼に、ぼくは『九月に降る風』を勧めたのだけれど、
結局彼は観てくれたんだろうか。
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『九月に降る風』
DVD 3,990円(税込)
発売・販売元:アミューズソフトエンタテインメント
(C)2008 Mei Ah Entertainment Group
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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