同時代の才能を、リアルタイムで追う。
これも映画を観るうえでの喜びのひとつです。
数十年にひとりの天才。
彼らの変化の過程を、時代の空気の中で感じることができるなんて、
映画ファンとして、こんなに幸せなことありません。
1940年代には『市民ケーン』で世間を騒がせたオーソン・ウェルズがいました。
1960年代は『勝手にしやがれ』で映画史を書き換えてしまうほどの衝撃を与えたジャン=リュック・ゴダールが。
1980年代になると「恐るべき子供」と称されたレオス・カラックスが
『ボーイ・ミーツ・ガール』で鮮烈デビューを果たし、
フランス映画に新たな潮流を生み出しました。
いずれも、映画史に残る大傑作。
しかし、これら偉大なる作品たちも、最初は"ただの新作映画"だったわけです。
「面白いのかしら?」なんて言われながら、普通に公開された。
しかしその作品を"目撃"してしまった人たちが、興奮し、熱狂した。
いてもたってもいられず、誰かれ構わずオススメした。
彼らは、期せずして"時代の目撃者"になってしまったわけです。
そんな幸せを、いまに置き換えて考えてみると、
魅力的な人はたくさんいますが、やはり、突き抜けた才能というとこの人しかいません。
カナダ出身の美しきカリスマ、グザヴィエ・ドラン。
監督作は、現時点で6本あるのですが、
ぜひとも観てもらいたいのが、
彼の天才性が炸裂している『Mommy/マミー』。
カンヌ国際映画祭審査員特別賞を、
83歳のゴダールと分け合ったことでも話題になった本作は、
こんな内容になっています。
***
架空の世界のカナダで、スキャンダラスな法律が成立した。
発達障害児を持つ親が何らかの困難に陥った場合は、
自らの意思で子の養育を放棄し、施設に入院させる権利が保障されたのだ。
ダイアン・デュプレは15歳の息子、スティーヴと暮らすシングルマザー。
ADHD(多動性障害)があるスティーヴは、他人に対して攻撃的な態度を取りがちで、
彼の面倒を見ることにダイアンは不安を感じている。
そんな2人はある日、引きこもり気味で吃音の悩みを抱えた隣人、カイラと知り合う。
次第に親交を深め、家族に似た関係性を築いていくが…
***
エモーショナルでファンタスティック。
本作が秀逸なのは、対極に思えるこの2点が奇跡的なバランスで成立しているからです。
「僕がもっとも愛するテーマを挙げるとしたら、それは僕の母についてだ。
同時にそれは母親というもの全体を指している」
とドランが語るように、彼は幾度となく母との関係を映画で追及しています。
本作でも、観ているのがつらくなるほど、
ヒリヒリとした母と子の関係を逃げることなくまっすぐに描きます。
ありったけの魂を込めて。
そんなドキュメント的な素材を、
誰も観たことがないようなオリジナリティ溢れる映像で観せてくれるのが、
ドランという作家のスゴいところ。
映画のスクリーンサイズは通常16:9などの横長が普通ですが、本作はなんと1:1。
つまりインスタグラムと同じ正方形なのです。これはめずらしい。
この画面サイズで、怒っている人のアップを撮ると、、、
そう、ものすごく窮屈に感じます。
両サイドに余白がない分、横長スクリーンよりも、息苦しさが何倍にも増すのです。
しかもドランは、この不思議な画面サイズを使って、
世界初となるあることを仕掛けてきます。
ネタバレになるので詳しいことは書けませんが、ここがとにかくスゴいんです。
ぼくは、映画館にも関わらず「うわーー!!」って声が出てしまいました。
そのシーンで流れる音楽にも注目して、観てみてください。
ドランの"天才"が、よーく伝わると思います。
子役からキャリアをスタートさせ、
いまやルイ・ヴィトンの広告キャラクターに選ばれたりと、
カルチャーアイコンとしても絶大な支持を得るグザヴィエ・ドラン。
次代を担う新鋭の今後は、リアルタイムでぜひ。
************************************************
『Mommy/マミー』
Blu-ray 4,700円+税
DVD 3,800円+税
発売元:ピクチャーズデプト
販売元:ポニーキャニオン
© 2014 une filiale de Metafilms inc. / Photo credit : Shayne Laverdiêre
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site