人は、謎めいた雰囲気に惹かれると言います。
ミステリー小説を読み始めたら、どうしても結末が気になってしまうし、
工事現場を見ただけで「何ができるんだろう?」とワクワクする。
それと同じように、恋した相手が影のあるタイプだと、
「もっと知りたい」という気持ちが発動し、一層、心を奪われてしまう。
もはやこれは、人間の性なのかもしれません。
映画監督のデビッド・リンチが人気なのも同じ理由からではないかな、と。
『ツイン・ピークス』や『マルホランド・ドライブ』なんて、
作品自体が"謎そのもの"です。
謎が謎を呼び、いつしか迷宮世界へと迷い込み、
謎は回収されないまま、エンディングを迎える。
でもこれが、ちゃんと面白いんだからビックリ。
つまりリンチ・ファンは、謎そのものに魅了されているわけですね。
これぞ、オンリーワンな作風。
一方、今回ご紹介する『ダークナイト』のジョーカーは、
"謎多き人物"部門のオンリーワン。
何度も映画化されている『バットマン』の敵役ながら、
もはやアメコミの枠を超え、
映画史に残る記念碑的な悪役となった『ダークナイト』版ジョーカー。
きっと、ストーリー紹介を読んでいただくだけでも、
ザワザワ、伝わるものがあるのではないかな、と。
***
ゴッサム・シティーに、究極の悪が舞い降りた。
ジョーカーと名乗り、犯罪こそが最高のジョークだと不敵に笑うその男は、
今日も銀行強盗の一味に紛れ込み、彼らを皆殺しにして、大金を奪った。
この街を守るのは、バットマン。
彼はジム・ゴードン警部補と協力して、
マフィアのマネー・ロンダリング銀行の摘発に成功する。
それでも、日に日に悪にまみれていく街に、一人の救世主が現れる。
新任の地方検事ハービー・デントだ。
正義感に溢れるデントはバットマンを支持し、徹底的な犯罪撲滅を誓う。
資金を絶たれて悩むマフィアのボスたちの会合の席に、ジョーカーが現れる。
「オレが、バットマンを殺す」。
条件は、マフィアの全資産の半分。
しかし、ジョーカーの真の目的は、金ではなかった。
ムカつく正義とやらを叩き潰し、高潔な人間を堕落させ、
世界が破滅していく様を特等席で楽しみたいのだ。
遂に始まった、ジョーカーが仕掛ける生き残りゲーム。
開幕の合図は、警視総監の暗殺だ。
正体を明かさなければ市民を殺すとバットマンを脅迫し、
デントと検事補レイチェルを次のターゲットに選ぶジョーカー。
しかし、それは彼が用意した悪のフルコースの、ほんの始まりに過ぎなかった…
***
どうです?
これ以上の説明なんて不要なほど、面白そうでしょ。
でも、少しだけ。
やっぱりヒーロー映画というのは、
悪役が悪ければ悪いほど、強ければ強いほど、面白くなります。
本作のジョーカーは、世界を破壊し、
人々を恐怖の底へ叩き込むことに無上の喜びを覚えるという、まさに悪の化身です。
その存在感は絶大で、スクリーンを飛び出してきそうな迫力に満ちています。
そのアイコン的な役割を果たしているのが、ピエロのメイクです。
白塗りで、口が裂けていて、常に笑っているような顔。
このジョーカー自身が施すメイクが、
凶悪犯ジョーカーがサイコパスであることを如実に表しています。
その"笑み"は、観る人すべてを不安な気分に陥らせ、
まるで共感を拒絶するような不気味さが溢れ出ているのです。
しかし残念ながら…
ジョーカーを演じたヒース・レジャーは作品の公開を待たずに死去。
28歳という若さで、不慮の死を遂げてしまったのです。
(その後、アカデミー賞の最優秀助演男優賞を受賞)
彼を失った喪失感はとても大きいですが、
ひとりの俳優が人生のすべてを懸けた演技を、
僕たちは『ダークナイト』を通して目にすることができます。
その幸せをじっくりと噛み締めながら、
謎の男ジョーカーに、心ゆくまで翻弄されてしまってください。
ありがとう、ヒース・レジャー。
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『ダークナイト』
Blu-ray 2,619円(税込)
DVD 1,572円(税込)
ダウンロード販売中/デジタルレンタル中
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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