キノ・イグルーの週末シネマ​ no.192
ダークナイト|あなたもきっと翻弄される目が離せない、謎多き人のカバー画像

ダークナイト|あなたもきっと翻弄される目が離せない、謎多き人物

文:キノ・イグルー 有坂塁

ダークナイト|監督:クリストファー・ノーラン(2008年・アメリカ)

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2021年02月19日作成



人は、謎めいた雰囲気に惹かれると言います。


ミステリー小説を読み始めたら、どうしても結末が気になってしまうし、

工事現場を見ただけで「何ができるんだろう?」とワクワクする。


それと同じように、恋した相手が影のあるタイプだと、

「もっと知りたい」という気持ちが発動し、一層、心を奪われてしまう。

もはやこれは、人間の性なのかもしれません。


映画監督のデビッド・リンチが人気なのも同じ理由からではないかな、と。

『ツイン・ピークス』や『マルホランド・ドライブ』なんて、

作品自体が"謎そのもの"です。

謎が謎を呼び、いつしか迷宮世界へと迷い込み、

謎は回収されないまま、エンディングを迎える。

でもこれが、ちゃんと面白いんだからビックリ。

つまりリンチ・ファンは、謎そのものに魅了されているわけですね。

これぞ、オンリーワンな作風。


一方、今回ご紹介する『ダークナイト』のジョーカーは、

"謎多き人物"部門のオンリーワン。

何度も映画化されている『バットマン』の敵役ながら、

もはやアメコミの枠を超え、

映画史に残る記念碑的な悪役となった『ダークナイト』版ジョーカー。


きっと、ストーリー紹介を読んでいただくだけでも、

ザワザワ、伝わるものがあるのではないかな、と。


***


ゴッサム・シティーに、究極の悪が舞い降りた。

ジョーカーと名乗り、犯罪こそが最高のジョークだと不敵に笑うその男は、

今日も銀行強盗の一味に紛れ込み、彼らを皆殺しにして、大金を奪った。

この街を守るのは、バットマン。

彼はジム・ゴードン警部補と協力して、

マフィアのマネー・ロンダリング銀行の摘発に成功する。

それでも、日に日に悪にまみれていく街に、一人の救世主が現れる。

新任の地方検事ハービー・デントだ。

正義感に溢れるデントはバットマンを支持し、徹底的な犯罪撲滅を誓う。

資金を絶たれて悩むマフィアのボスたちの会合の席に、ジョーカーが現れる。

「オレが、バットマンを殺す」。

条件は、マフィアの全資産の半分。

しかし、ジョーカーの真の目的は、金ではなかった。

ムカつく正義とやらを叩き潰し、高潔な人間を堕落させ、

世界が破滅していく様を特等席で楽しみたいのだ。

遂に始まった、ジョーカーが仕掛ける生き残りゲーム。

開幕の合図は、警視総監の暗殺だ。

正体を明かさなければ市民を殺すとバットマンを脅迫し、

デントと検事補レイチェルを次のターゲットに選ぶジョーカー。

しかし、それは彼が用意した悪のフルコースの、ほんの始まりに過ぎなかった…


***


どうです?

これ以上の説明なんて不要なほど、面白そうでしょ。

でも、少しだけ。


やっぱりヒーロー映画というのは、

悪役が悪ければ悪いほど、強ければ強いほど、面白くなります。


本作のジョーカーは、世界を破壊し、

人々を恐怖の底へ叩き込むことに無上の喜びを覚えるという、まさに悪の化身です。

その存在感は絶大で、スクリーンを飛び出してきそうな迫力に満ちています。


そのアイコン的な役割を果たしているのが、ピエロのメイクです。

白塗りで、口が裂けていて、常に笑っているような顔。

このジョーカー自身が施すメイクが、

凶悪犯ジョーカーがサイコパスであることを如実に表しています。

その"笑み"は、観る人すべてを不安な気分に陥らせ、

まるで共感を拒絶するような不気味さが溢れ出ているのです。


しかし残念ながら…

ジョーカーを演じたヒース・レジャーは作品の公開を待たずに死去。

28歳という若さで、不慮の死を遂げてしまったのです。

(その後、アカデミー賞の最優秀助演男優賞を受賞)


彼を失った喪失感はとても大きいですが、

ひとりの俳優が人生のすべてを懸けた演技を、

僕たちは『ダークナイト』を通して目にすることができます。


その幸せをじっくりと噛み締めながら、

謎の男ジョーカーに、心ゆくまで翻弄されてしまってください。


ありがとう、ヒース・レジャー。


************************************************
『ダークナイト』
Blu-ray 2,619円(税込)
DVD 1,572円(税込)
ダウンロード販売中/デジタルレンタル中
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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