東京で外出自粛要請のあった3月29日の朝、この原稿を書いています。
季節外れの大雪で、窓の外は屋根も道も、桜の木までもが、ぜんぶ真っ白です。
そんな想定外のことばかりがつづく、2020年の春。
まるでハリウッドが作ったディザスタームービーを思わせる前例のない日々に、
不安を感じている方たくさんいらっしゃると思います。
こういう状況になると、東日本大震災のときと同様、
気軽にザッピングできるテレビは便利である一方、リスキーだなとも感じます。
見なければいいのに、何度もニュースを見てはテンションが下がる、負のスパイラル。
あなたは大丈夫でしょうか?
もし少しばかり心がお疲れなようでしたら、
こんなときこそフィクションの出番です!
それもモヤモヤした気持ちを一発で吹き飛ばしてくれる、
とびきりのフィクションが。
クエンティン・タランティーノ監督の意欲作『デス・プルーフ』は、
ジャンルで言うと"カーアクション"になるため、
もしかしたらキナリノ読者の方は心惹かれないかもしれません。
でも大丈夫。
ぼくを信じてください。
この映画は、好き嫌いなんていう自分の枠を遥かに超えたところから、
パワーを与えてくれる作品となりますので。
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アメリカ・テキサス州。
女性DJ、ジャングル・ジュリアと仲間の女性たちはバーをはしごするが、
ドクロのマークが付いた車に乗った謎の中年男、
スタントマン・マイクによって恐ろしい目に…
それから14カ月後、テネシー州。
映画の撮影で現地を訪れたスタントウーマンのコンビ、ゾーイとキム。
空き時間を利用して、仕事仲間2人も連れて4人である目的地へとドライブへ。
そこに現われたスタントマン・マイクはひそかに一行の後をつける…
***
はい、いかがでしょうか。
いかにもB級映画的な筋立てですが、
これを超一級のエンターテイメントに仕上げてしまうのが、
クエンティン・タランティーノの特殊な才能なのです。
彼の作品は、表現のメリハリがはっきりしています。
ダラダラとした会話のあとに、ドライブ感あふれるアクションが入ってくる。
しかもその振り幅がダイナミックだから、
細かいことを考える暇もなく、ワクワクする。
そんな彼の個性を極限まで突き詰めた作品が『デス・プルーフ』なのです。
ストーリーをシンプルにして無駄を削ぎ落とした分、
表現の"強度"がより前に出てきました。
前代未聞ともいえる超絶カーアクションでは、
ボンネットに美女を乗せたまま、CGを一切使わずに撮影。
その緊張感とエネルギーが、映像を通してビンビンと伝わってきます。
さらに、伝説になったと言っても良い、怒涛のクライマックス。
詳しくは書けませんが、ぼくが初めて鑑賞した際は、
あまりのカタルシスを感じる終わり方に、
まさかのスタンディングオベーションが!
映画祭ではなく、一般の映画館でですよ!
そんな素敵な経験、後にも先にもあのときだけです。
サントラも役者もしびれるほどカッコいいし、
大げさではなく、タランティーノにとって、
ひとつの到達点なのではないでしょうか。
そして、そして。
何よりも最高なのが、このいかにもB級的な内容を
タフなヒロインを主人公にしたガールズムービーにしてしまったところ。
さすが、強い女性が好きなタランティーノ。
「#Me Too」以後の、いまの時代にもぴったりです。
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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