"風景"があること。
それこそが、僕が演劇ではなく、
映画を好きになった大きな理由になります。
つまり世界観。
演劇のように役者と美術でストーリーを語るのではなく、
まずは大前提として、風景がある。
自然があって、建築物があって、風が吹いている。
様々なものが影響しあったその世界に"人"がいて、
物語が動き始める。
人間の意思だけではコントロールしきれない世界観という大きなものに、
僕は人知れずワクワクしてしまうのです。
小物やインテリアだって、
おしゃれならいいというわけではありません。
風景との調和こそが大事で、このクオリティさえ高ければ、
物語の説得力は何倍にも増すわけです。
その観点から、ベストの1本と言ってもいいのが
『君の名前で僕を呼んで』。
作り手側の美意識が、こんなにも隅々まで行き通った映画は、
そうお目にかかれるものではありません。
さらっとしてますが、強烈に完成度の高い一作です。
ストーリーはこんな感じ。
***
1983年夏、北イタリアの避暑地。
17歳のエリオは、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーと出会う。
彼は大学教授の父の助手で、夏の間をエリオたち家族と暮らす。
はじめは自信に満ちたオリヴァーの態度に反発を感じるエリオだったが、
まるで不思議な磁石があるように、ふたりは引きつけあったり反発したり、
いつしか近づいていく。やがて激しく恋に落ちるふたり。
しかし夏の終わりとともにオリヴァーが去る日が近づく…
***
"生涯忘れられない恋の痛みと喜び"というビタースイートな恋を、
本作はLGBT映画にありがちな差別や人権といった社会的要素を排して描きました。
男女のそれと全く変わらないものとして、
どこまでもロマンティックなラブストーリーであることを貫く。
"美しさ"のみに振り切って。
ここが画期的でしたし、
多様性の時代を迎える上で新たな扉を開いた一作となったのです。
主人公エリオには、本作が初主演となったティモシー・シャラメ。
繊細で無垢な若者の奇跡のような瞬間を描くことは
彼なしではありえなかったですし、
ここから大スターの仲間入りを果たしたのも納得の名演技を見せてくれます。
そして。
ストーリーを物語る上で、登場人物と同じくらいのインパクトを持つのが、
北イタリアの別荘「ヴィラ・アルベルゴーニ」。
ここは、ルカ・グァダニーノ監督が惚れ込んだと言われる17世紀の別荘で、
劇中では、もう1人のキャストと言ってもいいほどの存在感を放っています。
高い天井、広いエントランス、白い塗り壁。
ただ裕福なだけではない、豊かな歴史を感じる空間作り。
荒れ果てた建物に80年代の空気を吹き込んだのは、
監督の友人でもあるインテリア・デザイナーのヴィオランテ・ヴィスコンティ。
名前の通り彼女は、
かのルキノ・ヴィスコンティ監督(ベニスに死す)の子孫で、
ミラノの名門貴族の出身。
本作のインテリアも彼女らしく、エレガントにまとめられています。
クラシックなシャンデリア。床に敷きつめられた絨毯。
壁面には、金縁の鏡や、巨大な連作絵画、古ぼけた大きな地図。
研究のための書物に囲まれた書斎。
ヴィンテージのソファ。カーテン。テーブルクロス。
使い込まれた銅鍋が並んでいるキッチンだって、
まぶしい光と緑に囲まれたお庭だって、
もう目に映る全てが美しく、
まるで贅の限りを尽くした美術品を見ているような気分になります。
うっとりです。眼福。
ぜひとも、色の組み合わせやアイテム選び、
アンティークの使い方など、
あなたの新生活のお手本としてご覧になってみてください。
その気がなかった方も、模様替えしてしまいたくなること必至です。
よき週末を!
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『君の名前で僕を呼んで』
DVD 4,290円(税込)
Blu-ray 5,280円(税込)
DVD&Blu-ray発売中
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©Frenesy , La Cinefacture
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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