今回のテーマのおかげで、20年以上失念していたあることを思い出しました。
それは、20代前半の頃のこと。
「敬老の日」当日に"ひとり上映会"なるものを、
1人ひっそりとおこなっていたのでした。
おじいちゃん・おばあちゃんを魅力的に描いた作品を、
「敬老の日」当日に鑑賞する。ただそれだけのもの。
でも、前年亡くなった大好きなおじいちゃん・おばあちゃんを思い出したくて、
2人への追悼の意も込め、毎年欠かさず開催していたのです
(といっても、5年ほどですが…)
何を観てたんだろ。
ちょっと、記憶を辿ってみようと思います。
パッと思い出せるのは、この2本。
ふたりの老人が盗んだジープを走らせるアイスランド映画『春にして君を想う』(1991)。
海沿いのサマーハウスを舞台にした老姉妹の物語『八月の鯨』(1987)。
あとは…
アル・パチーノ演じるおじいちゃんと映画の世界に憧れる少年の感動作
『天国の約束』(1995) も上映しました!
残り2本、何だっけな~。本気で思い出せません 笑
では、この原稿を書き終わるまでには何とか思い出すので、
すみません、しばし保留でお願いします!笑
先に進みますね。
今回ご紹介したい"おじいちゃん・おばあちゃん映画"は、
スウェーデンの作品『100歳の華麗なる冒険』。
キービジュアルを観るかぎり、
ポップでアットホームなコメディ映画かと思いましたが、
意外や意外、予想を覆す作品に仕上がっていました。
まずはストーリーからご確認ください。
***
100歳の誕生日を祝われるはずだったアランは老人ホームから逃げ出し、
バスに乗ってあてのない旅に出発。
偶然降りた駅の近くに住むユーリウスと酒を酌み交わし意気投合。
しかしその道中、ギャングの闇資金入りスーツケースをひょんなことから入手したため、
警察とギャングに追われる身になってしまう。
アランはいかなるトラブルに見舞われようとも、超人的なマイペースぶりを発揮。
はたして彼は何者なのか?
なんと、歴史上の何人もの要人と親交を持ち、
20世紀における国際情勢の大きな節目に居合わせてきた"重要人物"だったのだ。
摩訶不思議な人生をおくってきたアランと、
その仲間たちとの新たな冒険がはじまる。
***
予想を覆される驚きの内容とは…
それはブラックユーモアの分量についてです。
主人公はのほほんと生きていているし、作品の雰囲気だって確かにアットホーム。
でもそのムードを壊さぬままに、
突然「えっ!」と声をあげてしまう、もの凄いことが起こるんです。
まるで何事もなかったかのように。
そんなシュールなテイストも含む、コメディ作品となっています。
ひょんな事から大金の入ったケースを手に入れ、
ギャングに追われる100歳のおじいちゃん。
しかし本人は、そんな事になっているとは気づかず、出会った人と珍道中。
そんな現代パートも面白いのですが、
過去のパートがおじいちゃんの魅力を惹き立てます。
回想シーンって、しみじみしたものになりがちですが、
このおじいさんに平凡な人生はありません!
文字通り"ブッ飛んだ"人生を歩んできたことが、ここでわかるのです。
彼は訳あって、数々の歴史的事件や多くの歴史的人物と会ってきていました。
東西冷戦時代には米ソの二重スパイとなって、
レーガンやゴルバチョフのもとで働くことになったり、
"あの"独裁者とも対面していたり…
そんな特殊な状況でも、彼は全く臆すること無く、
フレンドリーに酒を飲み交わすのです。
終始一貫、成り行きまかせで、激動の20世紀を駆け抜けていく。
一部では、過激な『フォレスト・ガンプ』なんて言われている、
奇想天外な北欧コメディです。
「もしかしたら、自分のおじいちゃんも…」
そんなことを想像しながら観るのも、乙かもしれません。
最後に。
思い出しました、あと2本。
小津安二郎の名作『東京物語』(1953) と、
白人の老婦人と黒人の運転手の心の交流を描いた『ドライビング Miss デイジー』(1989) でした。
************************************************
『100歳の華麗なる冒険』
Blu-ray 2,750円(税込)
発売・販売元:KADOKAWA
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site