2022年2月の終わり頃。
報道番組で盛んに流れていたのは、ロシアの不穏な動きを察知し、
国外退去するウクライナ人のニュースでした。
しかし一方で、「戦争は起こらないから大丈夫」
「いつも通りの穏やかな日常です」という市民の声も流され、
実際、その通りの美しい街並みが映像を彩っており、
僕自身も「そりゃ、そうだ。戦争なんて起こるわけない。」
との気持ちでテレビを眺めていました。
その時までは。
2022年2月24日。
ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まりました。
あの日以来、家族や友人とも当たり前のように"戦争と平和"を語るようになり、
ニュースを見る頻度も格段に増し、
戦争にまつわる映画も積極的に鑑賞するようになりました。
ウクライナで撮影されていたことを初めて知った
『ひまわり』(1970) のリバイバル上映を始め、
新旧いくつもの作品を鑑賞しました。
中でも、最も心を揺さぶられた『禁じられた遊び』を
今回はご紹介したいと思います。
今よりも平和だった20年前ぐらいに観たときは、
正直、暗い映画だなぁという印象しか残りませんでしたが、
それは『小さな恋のメロディ』(1971) のような映画だと
勝手に思い込んでいた僕のせいでもあります。
そう、映画はタイミングが大事。
『禁じられた遊び』は、"今"観ることで、
映画の世界とリアルが静かに溶け合い、
すべてを自分事として捉え直すことの出来る作品です。
5年後では意味が変わってしまいます。
ぜひ勇気を出して、チャレンジしてみてください。
ストーリーは、このようになっています。
***
第二次世界大戦中のフランス。
ドイツ軍によるパリ侵攻からの避難途中、
5歳の少女ポーレットは爆撃により両親と愛犬を亡くしてしまう。
ひとりはぐれて、子犬の亡きがらを抱きながら彷徨ううち、
11歳の農民少年ミシェルと出会う。
ミシェルから死んだら土に埋めるのだ、と知らされたポーレットは子犬を埋め、
お墓をつくり十字架を供える。
それからは、お墓をつくり十字架を供える遊びがすっかり気に入り、
この秘密の遊びのために二人は、十字架を集め始め、
ついに教会や霊柩車からも十字架を持ち出すようになってしまうのだった…
***
というストーリーです。
汚れを知らない子どもの目線を通して、生と死を語る。
ふたりの子どもが主人公ではあるけれど、立派な反戦映画となっています。
まだ死を理解できない少女ポーレットと、
彼女を喜ばせるためにダメだと分かっていながら
"禁じられた遊び"を続ける少年ミシェル。
そこから浮き彫りになる、子どもの残酷さと大人の残酷さ。
本作は戦時下を描きながらも、
子どもの純粋さや無邪気さが際立っていくほど、
戦争の悲惨さが浮かび上がるという、
知的なアプローチで作られた作品となっています。
そして、ナルシソ・イエペスによる哀愁に充ちた「愛のロマンス」のギターの独奏が、
映画の感動をより一層深めてくれます。
戦争によって奪われた人々の魂を鎮めるかのような、哀しくも美しい楽曲です。
メガホンを取ったのは、
後にアラン・ドロンが主演した『太陽がいっぱい』(1960) を手がけた
フランスの名匠ルネ・クレマン監督。
遠い昔の映画ではありますが、いま同じような事がウクライナでも起きています。
こんな負の歴史を繰り返さないためにも、まずは本作を鑑賞し、
心が動いている状態で"平和"について考えてみるのはいかがでしょうか?
純粋無垢で真っ白な子どもたちのためにも、ぜひ。
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『禁じられた遊び』
価格 Blu-ray¥5,280(税込)
発売・販売元:KADOKAWA
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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