キノ・イグルーの週末シネマ​ no.45
マザーウォーター|淡々と日常を切り取った映のカバー画像

マザーウォーター|淡々と日常を切り取った映画

文:キノ・イグルー 有坂塁

マザーウォーター|監督:松本佳奈(2010年・日本)

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2018年04月27日作成



何も起こらない映画は退屈だ、と言われますが、それってほんとでしょうか。

目が回るほどめまぐるしい展開のハリウッドアクションに退屈さを感じる人だってきっといるはず。

いや、実際にそういう人を何人も知っています。


この問題、おそらく観ている人の体内時間との兼ね合いではないかと思ってます。

ゆっくりしたリズムをまとったおっとりさんと、

歩くのもしゃべるのも早いせっかちさんでは、

そもそも流れている時間感覚が違う。

どっちがいいではなく、どっちもいいんです。

それぞれのリズムに合った映画があるだなんて、とっても豊かですよね。


今回の『マザーウォーター』は、ものがたりのない、ものがたり。

誰もが生きている、現実の世界、その隣り合わせにあるかもしれない、

そんなお話です。


***


京都に暮らす3人の女たち。

ウィスキーしか置いていないバーを営むセツコ。

疎水沿いで喫茶店を開くタカコ。

この街にやって来て、念願の豆腐づくりを始めたハツミ。

それぞれに、自分らしい生き方を送っていた。

そして同じ街に住む、家具職人のヤマノハ、銭湯の主人オトメ、

その下で働くジン、いつも散歩している謎のおばさんマコト。

この街で出会った彼らは、互いにちょっとずつ影響しあいながら、

おだやかに日々を重ねていく。


***


豆腐屋、バー、銭湯、コーヒー屋、

それらを順に巡りながら流れていくエピソードの数々。

特別な事件があるわけではなく、

ただただ、時間がゆったりと流れていきます。


豆腐を店先のベンチで食べる。

お気に入りの喫茶店で、コーヒーを飲みながら小説を読む。

イスを直したお礼にカツサンドをもらう。

水割りを飲みながら、その日に考えたことや思ったことを店主に話す。


それらの何気ない風景やひと言が、いずれも心地よく、

ずっと観ていたくなるんですね。

そして見終わったあとは、体全体をしあわせが包み込んでくれます。


つつましく生きるということを、理屈ではなく、

音や光、間の取り方など、感覚で伝えてくれるところがうれしい。

だってそういうものだもの。

そういった意味でも、スロームービーの名作だと思います。

京都を舞台にした作品なので、ロケ地巡りもオススメ!


おいしいコーヒーとともに、ぜひご覧になってみてください。


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『マザーウォーター』
Blu-ray 6,264円(税込)
DVD 5,184円(税込)
発売元:バップ
(C)2010パセリ商会

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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