観客の心をグッと作品世界へ引き込むために、
本編と同じくらい重要なのがオープニングシーン。
セリフ中心に物語を展開すると、
平気で10時間の作品になってしまうのが映画です。
いかに効率よく、物語を語れるか。
(つまり"いい映画"の条件とは、観る側のイマジネーションを使いながら、
"映像で語れる"ということ)
そのためにも、作品の全体像を伝えるための導入部として、
オープニングシーンはとても重要になってくるわけです。
『黒い罠』。
1958年製作のアメリカ映画。
ハリウッド産の犯罪映画史上でも屈指の一本と言われるマスターピース。
この映画こそが、僕にオープニングシーンの重要性を初めて教えてくれました。
麻薬捜査官vs刑事という"鬼渋"な設定に、
心が動かないことも理解できますが、
この伝説のオープニングはぜひとも観てもらいたい!
自らの好みを飛び越えてでもチャレンジしてもらいたい一作です。
内容は保証します。
ということで、まずはストーリーからご確認ください。
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メキシコ国境近くにある米国の小さな町を新婚旅行で訪れた、
メキシコ人麻薬捜査官ヴァルガスだが、
地元の有力者が乗った車が爆発する事態を目撃。
ヴァルガスは米国側の捜査担当者であるクインラン刑事の捜査に協力を申し出るが、
クインランは面白くなさそうな様子。
そんなヴァルガスと妻スーザンは
ギャングから脅迫されるなどの嫌がらせを受けるように。
実はクインランは不正に手を染めた悪徳警官で、ヴァルガスの命を狙い…
***
監督は、あの超名作『市民ケーン』で、
衝撃的デビューを飾った天才オーソン・ウェルズ。
彼のもう一本の代表作が、この鬼渋フィルムノワールになります。
本作を鑑賞する上での注目ポイント。
それは、ズバリ、映像面です。
正直言ってストーリーに関しては、ちょっと込み入ってて、
わかりづらい部分もあるのですが、
それを凌駕するほどに視覚的芸術性の高い傑作となっています。
例えば。
フィルムノワール映画の主役と言われる、コントラストの強いモノクロ映像。
こちらは超巨大ライトを使い、力強く光を当てることで、"影"を強調。
ドラマチックな雰囲気を作り出すだけでなく、
主人公の心の闇までも表現するこだわりよう。
また広角レンズを多用することで、
日常生活では目にすることがない歪な空間を表現し、
そこに流れるようなカメラワーク&奇抜なカメラ・アングルが組み合わせることで、
唯一無二の映像世界を楽しむことができるのです。
そんな芸術性の象徴こそが、
映画史上もっとも有名と言われるオープニングシーン。
ネタバレになるので、詳しくは申し上げられませんが、
クレーンで移動撮影をしながら、3分18秒にもわたる長廻しで魅せてくれます。
めまいがするようなワンカット。
この長廻しは"空間の振付"と評され、
CGもドローンもない時代ならではの印象的なファーストカットとして、
映画ファンを大いに熱狂させ、そして伝説となりました。
そんなガンコな映画職人たちによる無謀なチャレンジに、
この週末、触れてみるのもいいのではないでしょうか。
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『黒い罠』
完全修復版 Blu-ray: 2,075 円 (税込)
DVD: 1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2022年4月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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