飛ぶ鳥を落とす勢いとは、まさにこのこと。
1月10日の公開と同時に満席の回が続出し、大ヒットを続けている『パラサイト 半地下の家族』。
その勢いはとどまることを知らず、
ついにはアカデミー賞にて、作品賞、監督賞を始めとした6部門にノミネート。
それがまたニュースとなり、さらなる拡大公開が決定と、
近年稀に見る理想的な広がりを見せている。韓国映画の傑作です。
(アカデミー授賞式は、日本時間2月10日(月)10:00から!)
さて、『パラサイト~』のポン・ジュノ監督がデビューした2000年前後は、
さらに強烈な個性を持った2人の韓国人監督がいました。
ひとり目は『悪い男』『サマリア』『春夏秋冬そして春』などで、
海外の映画祭を震撼させ続ける鬼才キム・ギドク。
そしてもう一人が『ペパーミント・キャンディ』を監督した、
巨匠イ・チャンドンになります。
じつは彼、小説家出身という異色のキャリアを持つ監督です。
1980年代を文学作家として、1990年以降を映像作家として生きるイ・チャンドンは、
映画史のみならず韓国文化史の中で、
とてつもなく大きな意味を持つ作家と言えるかもしれません。
そんな彼の"伝説の傑作"と称される『ペパーミント・キャンディ』は、
映画ファンだけでなく、韓国映画にまだ馴染みがない方にも楽しんでもらえる、
バランス感覚のいい作品となっています。
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1999年、春。
旧友たちとのピクニックに場違いな恰好で現れたキム・ヨンホ。
そこは、20年前に初恋の人スニムと訪れた場所だった。
仕事も家族もすべてを失い、絶望の淵に立たされたヨンホは、
線路の上で向かってくる列車に向かって「帰りたい!」と叫ぶ。
すると、彼の人生が巻き戻されていく。
自ら崩壊させてしまった妻ホンジャとの生活、
互いに惹かれ合いながらも結ばれなかったスニムへの愛、
兵士として遭遇した「光州事件」…
そして、記憶の旅は人生のもっとも美しく純粋だった20年前にたどり着く…
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いま生きているこの現実では、時間の流れは過去から未来への一方通行です。
後悔したって後戻りはできないし、未来のことなんて何も分かりません。
でも映画の世界では、時間をコントロールすることが出来る。
そして、そこからしか表現できない"真実"というものが確かに存在するのです。
この物語は、過去に戻れば戻るほど、
ヨンホが純朴で幸せだった時間へと進んでいきます。
その一方で、時代や、ある人生の選択が、
いかに人間を変えてしまうのかという残酷な事実を、
観客の心に突きつけてもきます。
悲しくて、やりきれない。
でも奥底には、人間の存在そのものを肯定したいという願いが込められています。
彼の人生が、こちらの人生に、跳ね返ってくる。
本作でイ・チャンドンは、
大胆な作品の構造とメッセージ性とを巧みに絡み合わせ、
彼だけの小宇宙を作ることに成功しました。
そんな彼の最新作は、村上春樹の短編「納屋を焼く」を
長編映画化した『バーニング 劇場版』です。
ポン・ジュノからイ・チャンドンへ。
彼ら以外にも、強烈な才能を持った人材あふれる韓国映画の世界に、
あなたも触れてみては、いかがでしょうか。
※ 韓国映画の躍進のきっかけは、1999年の映画振興法の改正と言われています。
国が多額の製作費を助成し、自国映画を積極的にバックアップ。
体制が整い、右肩上がりで成長。
その集大成とも言えるのが、今回のアカデミー賞になるのです!!
ポン・ジュノ、がんばれ!
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『ペパーミント・キャンディー 4Kレストア・デジタルリマスター版』
Blu-ray 4,700円+税
発売・販売元:ツイン
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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