ついにこの作品を紹介できる日がやってきました。
マレーシア映画の『タレンタイム』。
ぼくがこれまで観てきた8,000本近い映画の中でも、
生涯の1本といっていい特別な作品で、
じつは昨年誕生した娘の名前も、この映画からいただきました。
劇場公開のみで、DVD化はされず。
しかし2021年3月3日、ついにDVDリリースとなったおかげで、
めでたくキナリノでもご紹介できる運びとなりました!
(「仮設の映画館」では、期間限定・配信されていました)
初めて鑑賞したのは、忘れもしない2009年10月の東京国際映画祭。
『タレンタイム』は、「特別招待作品」や
「コンペティション」といったメイン枠でなく、
「アジアの風」という小さな部門で、ひっそり上映されました。
監督を務めたヤスミン・アフマドは、
過去作5本をこの「アジアの風」部門で上映。
年を追うごとにファンが増え、『タレンタイム』ではついに、
六本木ヒルズ・スクリーン2の342席が満席となったのです
(最初は20人ぐらいでした)
しかし残念ながら、ヤスミンは映画祭前の7月に急死。
最新作『タレンタイム』は、図らずも遺作となってしまい、
当日は追悼上映という形となったのです。
忘れられない、上映後の拍手。
アフタートークは、壇上・観客ふくめて、みんな涙を流していました。
そんな出会い方から特別だった映画『タレンタイム』。
ストーリーは、このようになっています。
***
ある高校で、音楽コンクール"タレンタイム"(マレーシア英語=学生の芸能コンテストのこと)が開催される。
ピアノの上手な女子学生ムルーは、耳の聞こえないマヘシュと恋に落ちる。
二胡を演奏する優等生カーホウは、
成績優秀で歌もギターも上手な転校生ハフィズに成績トップの座を奪われ、
わだかまりを感じている。
マヘシュの叔父に起きる悲劇、
ムルーとの交際に強く反対するマヘシュの母、闘病を続けるハフィズの母…
マレー系、インド系、中国系…
民族や宗教の違いによる葛藤も抱えながら、
彼らはいよいよコンクール当日を迎える…
***
ひと言でいうと、美しい祈りのような映画です。
人種、宗教、文化が異なっても、排除するのではなく、
寄り添い、理解し合おうとする。
それぞれの日常で、もがき苦しみながらも、まっすぐに光を見つめようとする。
そういった気持ちがいかに尊いものかということを、
この映画は教えてくれます。ジョン・レノンの「イマジン」のように。
そして重要なポイントは、
本作のすべてがたくさんの愛でつつまれているということ。
友情、愛情、家族愛…
世界中の誰もが共感でき、希望の象徴でもある愛に守られているおかげで、
この映画のメッセージは、観ている人の心にスッと入ってくるのです。
ほかにも細かいシーンなど、語りたいエピソードはたくさんあるのですが、
ここではあえて申しません。とにかく観てください。
ヤスミン・アフマドは、まるで自分の死期を悟っていたかのように、
かけがえのない作品を最後に産み落としてくれました。
分断と対立が増す、こんな時代だからこそ、より多くの人に観てもらいたい!
初鑑賞から12年。
この間、3年おきぐらいに鑑賞し、自らのイベントでも上映。
そのたびに登場人物への理解が深まり、
同時に、自分自身もよりやさしくなれたような気がします。
観るたびに、自分の良さを引き出してくれる映画『タレンタイム』。
毎週、この連載を楽しみにしてくださっているみなさんとも、
この感動を共有することができれば、こんなに嬉しいことはありません。
よろしければ、ぜひ。
※音楽映画としても大傑作なので楽しみにしていてください。
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『タレンタイム~優しい歌』
DVD 4,180円(税込)
発売元:ムヴィオラ
販売元:オデッサ・エンタテインメント
©Primeworks Studios Sdn Bhd
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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