奇天烈。奇抜。奇想天外。
そんなクセの強い映画は、自分の中のこども心をくすぐられると同時に、
度がすぎると、心と思考が追いつかないという問題も出てきます。
絵画や写真と違い、映画の場合は最後まで観ないことには
"鑑賞した"ということになりません。
まずは、90分や120分、観てもらわないといけない。
そのためにも、ある種のわかりやすさが必要になってくるのです。
ここ数年、独創性とエンタメのバランスがハイレベルだった作品といえば、
断トツで『マルコヴィッチの穴』ということになります。
衝撃的でした。ここまでぶっ飛んだ設定ながら、
アカデミー賞の監督賞はじめ、3部門にもノミネートされたのですから、
もはや文句のつけようがありません。
こんなお話です。
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定職のない人形使いのクレイグは、新聞の求人欄を見て
マンハッタンにあるオフィスビルの7と1/2階にある小さな会社に就職する。
文書整理の仕事を得た彼は、
ある日落としたファイルを拾おうとキャビネットを動かし、
偶然壁に小さなドアを発見する。
ドアを開けて穴の中に入った彼は、
それが俳優ジョン・マルコヴィッチの脳へと続く穴であることに気づく。
そこに入ると誰でも15分間マルコヴィッチになることができた。
これを利用して商売を始めたところ、その“マルコヴィッチの穴”は大繁盛、連日行列が続いた。
自らの異変に不安を覚えたマルコヴィッチは
友人のチャーリー・シーンに相談する…
***
どうです?
びっくりするようなアイデアですよね。
でもじつは、「誰かの頭に入りたい」という妄想は、
誰もがしたことのある言わば"あるあるネタ"だったりする。
本作が秀逸なのは、奇想天外ながら「わかるわかる」という共感を入り口にした、
そのバランス感覚です。
役者だって、大スターのトム・クルーズではなく、
「いいとこつくよね~」と話題になった名脇役ジョン・マルコヴィッチですから。
その一方、彼を本人役で登場させ、
名前をタイトルにまで入れてしまうところは、
脚本家チャーリー・カウフマンとスパイク・ジョーンズ監督の
素晴らしく独創的なアイデアだと思います。
この楽しくもシュールな異次元散歩は、
やがて"自分らしさとはなにか"という、哲学的な問いへと辿り着きます。
こう見えて、奥が深い映画でもあるんですね。
アカデミー賞ノミネートも納得の完成度となっています。
みなさんも勇気を振り絞って、
マルコヴィッチの頭の中へと出かけてはいかがでしょうか。
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『マルコヴィッチの穴』
Blu-ray 1,886円+税
DVD 1,429円+税
発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年2月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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