キノ・イグルーの週末シネマ​ no.91
マルコヴィッチの穴|禁断のトビラを開けて異次元散のカバー画像

マルコヴィッチの穴|禁断のトビラを開けて異次元散歩

文:キノ・イグルー 有坂塁

マルコヴィッチの穴|監督:スパイク・ジョーンズ(1999年・アメリカ)

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2019年03月15日作成



奇天烈。奇抜。奇想天外。

そんなクセの強い映画は、自分の中のこども心をくすぐられると同時に、

度がすぎると、心と思考が追いつかないという問題も出てきます。


絵画や写真と違い、映画の場合は最後まで観ないことには

"鑑賞した"ということになりません。

まずは、90分や120分、観てもらわないといけない。

そのためにも、ある種のわかりやすさが必要になってくるのです。


ここ数年、独創性とエンタメのバランスがハイレベルだった作品といえば、

断トツで『マルコヴィッチの穴』ということになります。

衝撃的でした。ここまでぶっ飛んだ設定ながら、

アカデミー賞の監督賞はじめ、3部門にもノミネートされたのですから、

もはや文句のつけようがありません。

こんなお話です。


***


定職のない人形使いのクレイグは、新聞の求人欄を見て

マンハッタンにあるオフィスビルの7と1/2階にある小さな会社に就職する。

文書整理の仕事を得た彼は、

ある日落としたファイルを拾おうとキャビネットを動かし、

偶然壁に小さなドアを発見する。

ドアを開けて穴の中に入った彼は、

それが俳優ジョン・マルコヴィッチの脳へと続く穴であることに気づく。

そこに入ると誰でも15分間マルコヴィッチになることができた。

これを利用して商売を始めたところ、その“マルコヴィッチの穴”は大繁盛、連日行列が続いた。

自らの異変に不安を覚えたマルコヴィッチは

友人のチャーリー・シーンに相談する…


***


どうです?

びっくりするようなアイデアですよね。


でもじつは、「誰かの頭に入りたい」という妄想は、

誰もがしたことのある言わば"あるあるネタ"だったりする。

本作が秀逸なのは、奇想天外ながら「わかるわかる」という共感を入り口にした、

そのバランス感覚です。


役者だって、大スターのトム・クルーズではなく、

「いいとこつくよね~」と話題になった名脇役ジョン・マルコヴィッチですから。

その一方、彼を本人役で登場させ、

名前をタイトルにまで入れてしまうところは、

脚本家チャーリー・カウフマンとスパイク・ジョーンズ監督の

素晴らしく独創的なアイデアだと思います。


この楽しくもシュールな異次元散歩は、

やがて"自分らしさとはなにか"という、哲学的な問いへと辿り着きます。

こう見えて、奥が深い映画でもあるんですね。

アカデミー賞ノミネートも納得の完成度となっています。

みなさんも勇気を振り絞って、

マルコヴィッチの頭の中へと出かけてはいかがでしょうか。


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『マルコヴィッチの穴』
Blu-ray 1,886円+税
DVD 1,429円+税
発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年2月の情報です。

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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