キノ・イグルーの週末シネマ​ no.128
地下鉄のザジ|ポップでキッチュかわいいアート映画にときめいのカバー画像

地下鉄のザジ|ポップでキッチュかわいいアート映画にときめいて

文:キノ・イグルー 有坂塁

地下鉄のザジ|監督:ルイ・マル(1960年・フランス)

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2019年11月29日作成



90年代の渋谷は「かわいいアート映画」の宝庫でした。


過去のあらゆるカルチャーを貪欲に吸収し、

知識やセンスを競っていたこの時代(その象徴が渋谷系ムーブメント)。

当然、映画館でも新作のみならず数々のリバイバル上映が、

レイトショーやオールナイトの枠を使っておこなわれていました。


ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(1958)や、

ジャン=リュック・ゴダール『女は女である』(1961)、

ヴェラ・ヒティロヴァー『ひなぎく』(1966)、

ウィリアム・クライン『ミスター・フリーダム』(1969)など、

タイトルを並べただけで心が躍るような、

かわいいアート映画が渋谷のあちらこちらで上映されていました。


いま思い出しましたが、

新作映画として『オースティン・パワーズ』(1997) が公開されたときには、

あわせて、過去のおしゃれスパイ映画までリバイバル上映されていたのでした。

太っ腹!


そんな恵まれた環境にあって、

「かわいい」と「アート」がハイレベルに融合していた作品こそが

『地下鉄のザジ』です。

当時、雑貨屋さんやパン屋さんで、この映画のポスターをどれだけ見たことか。

そのイメージから、ただのかわいい映画と思われがちなのですが、

じつは"怪作"と呼びたくなるほど、アヴァギャルドな内容でもあるのです。


***


パリに遊びにやって来た10歳の少女ザジ。

彼女が一番楽しみにしていたのは、地下鉄に乗ることだった。

しかしあいにく地下鉄はストライキの最中で、

迎えに来てくれた叔父さんのガブリエルとパリ見物をする。

翌日、ザジは自分一人で街へ出て、

口ひげの怪しい男に追いかけ回されたり、

エッフェル塔で大人たちのアバンチュールを垣間見たりする。

一方、ザジがいなくなったことにガブリエルは慌てふためき、

必死で彼女を捜すのだが…


***


本作は、映画化不可能と言われたレーモン・クノーの実験的小説が原作になっています。

シュールで、ドタバタで、ナンセンス。

ルイ・マル監督は、言葉あそびの王様クノーの特殊な文体を

ぜひ映像でチャレンジしてみたかったのだそう。

コマ落としやスローモーション、ジャンプカットなど、

さまざまな映像テクニックを駆使して、

夢か現か、嘘か真か、理解を超越したカオスな世界を体験させてくれます。

チャレンジは大成功!


そして、何と言ってもParisです。

パッサージュでの追いかけごっこ、

エッフェル塔を上り下りする長いシークエンス、

どこをとっても魅力的なパリの映像ばかりなのですが、

撮影を担当したのは、アメリカの写真家ウィリアム・クライン。

そう!

彼は冒頭に紹介した『ミスター・フリーダム』の監督さんです。

なんという贅沢!


ザジのおかっぱとオレンジのセーターは、

女性なら真似したくなること間違いなしですし、

お子さまがいらっしゃる方は、

おかっぱの誘惑に抗うのは不可能だと思います。


そんな、向かうところ敵なしな「かわいいアート映画」の傑作。

ご鑑賞の際は、お気に入りのクロワッサンとカフェオレとともにぜひ。

なつかしのOlive少女を気取って。


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『地下鉄のザジ』
Blu-ray 4,800円+税
発売元・販売元:KADOKAWA

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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