まずは「群像劇」の説明から始めようと思います。
ひとつのテーマで個別の物語を集めた作品のことは「オムニバス」と言います。
『パリ、ジューテム』、『コーヒー&シガレッツ』のように、
同じテーマのもと作られた短編作品の集合体になります。
対して「群像劇」は、1本の長編作品の中に、
何人もの主人公が登場するというスタイル。
そして、それらの物語になんらかのつながりが存在しているもののことを言います。
たとえば、"テネシー州ナッシュビルでのカントリー・ミュージックやゴスペルなど、音楽業界に関わる24人の物語"、
または"夜を徹してのパーティに浮かれる高校生たちのナイトライフを描いた青春コメディ"など、
共通の時間の中で、さまざまな人々がつながっていく面白さがあります。
今回紹介する『マグノリア』も同じ構造ではあるのですが、
映画の舞台を上記のような音楽業界・ハイスクールという閉じた環境ではなく、
L.Aという大きな都市に設定しているところが、チャレンジングで興味深いのです。
では、テーマというと…
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クイズ王の天才少年スタンリー、
人気司会者のジミー・ゲイター、
癌に冒され臨終を控えている大物プロデューサーのアール、
迫り来る夫の死が受け入れられない若妻のリンダ、
女の口説き方を伝授するセックス界の教祖フランク、
おっちょこちょいな警官ジム、
コカイン中毒の女クローディア、
バーテンの若い男に恋心を抱く中年男ドニーなど、
LAを舞台に様々な苦悩を抱える不器用な人間たちが忙しく、エキサイティングな一日を繰り広げる。
訳ありの過去を持ち、後悔に苦しみながらも彼らは自分なりのやり方で状況と折り合いをつけようとする…
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ということで、本作のテーマは"後悔に苦しむ人たち"です。
ものすごく大きなテーマ。
人は生きる上で、罪を犯してしまいます。
そうすることである日、人生のどん底を迎えてしまう。
過去は振り返っても仕方ないとわかっていながら、
八方塞がりになってしまう。そんな人たちの物語。
と同時に、これは現代を生きるぼくたちのお話でもあるわけです。
いったい彼らにどんな救済が待っているのか。
とにかくここがすごいので、楽しみにしていてください。
世界の誰ひとりとして想像できない、驚きの展開があなたを待っています。
あ~思い出しただけでも興奮してくる…
そんなパワフルな映画を作ってくれたポール・トーマス・アンダーソン監督に、
最大限のリスペクトを。
そしてタイミングよく、彼の最新作『ファントム・スレッド』が5月26日(土)から公開されます。
『マグノリア』と合わせて、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
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『マグノリア』
DVD 1,429円+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
(C)1999 New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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