キノ・イグルーの週末シネマ​ no.223
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ヒッチコック/トリュフォー|あなたの想いを、文字にしたためて温かみのある手紙の魅力

文:キノ・イグルー 有坂塁

ヒッチコック/トリュフォー|監督:ケント・ジョーンズ(2015年・アメリカ/フランス)

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2021年09月24日作成



手紙だから届く想いがある。

フィンランドのアキ・カウリスマキ監督に手紙を書いたのは、2002年の冬でした。


新たに始めるシネクラブ(のちの移動映画館)の名前をつけてもらいたい。

僕たちの名付け親になってほしい。

しかし繋がりなどは一切なく、ただのファン。

ということで、周囲は、無理に決まってるの大合唱。

でも、彼の映画を観てきた感覚で言うと、

本気でぶつかればきっと答えてくれる!のです。

これを根拠のない自信と言うのでしょう。


僕たちはいかに彼の作品に影響を受けてきたか。

閉塞感のあった日本の映画状況をどう変えていきたいか。

そんな一方的な熱い想いを、一生懸命、4枚の紙に綴りました。

2枚は英語、2枚はフィンランド語で。

さらにチェキで自撮りした写真も同封し、

ヘルシンキにあるカウリスマキのプロダクションへと郵送したのです。


その想いは、無事、届きました。

2003年1月の最終日に返事をいただき、

"キノ・イグルー"という名前に決定。

相方と「監督の善意にしっかり答えていこうな!」と

固く誓い合った日々が懐かしいです。


そして僕たちと同じように(恐れ多いですね…すみません!)、

憧れの人に手紙を書き、夢を叶えた映画監督がいます。


その名は、フランソワ・トリュフォー。


1960年代に巻き起こった映画運動「ヌーヴェルヴァーグ」の中心人物であった彼は、

長年の夢だった本を出版するため、

巨匠アルフレッド・ヒッチコックに直筆の手紙を書いていました。


今回は、そんな2人にまつわるドキュメンタリーをご紹介したいと思います。


***


フランソワ・トリュフォーによるアルフレッド・ヒッチコックへのインタビューを収録し、

"映画の教科書"として長年にわたって読み継がれている

「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」を題材にしたドキュメンタリー。

インタビューが行われた1962年当時のヒッチコックとトリュフォーの貴重な音声テープをはじめ、

マーティン・スコセッシ、デビッド・フィンチャー、黒沢清、

ウェス・アンダーソン、リチャード・リンクレイターら

ヒッチコックを敬愛する10人の名監督たちにインタビューを敢行し、

時代を超越したヒッチコックの映画術を新たな視点でひも解いていく。


***


トリュフォーが初めてヒッチコックと出会ったのは、

まだ映画評論家だった1954年の冬、

「カイエ・デュ・シネマ」誌のインタビューのときだったそう。


その5年後、彼は長編デビュー作『大人は判ってくれない』(1959) で、

一躍、時の人となったのですが、

映画監督として多忙を極めていた1962年の春、

彼はヒッチコックに長い手紙をしたためます。


そのタイミングに、彼の本気度と言いますか、

「どうしても作りたい!」という前のめりなパワーが現れている気がするのですが、

手紙にもこんな一文を記していたのだそう。


「インタビュー本を出版した暁には、

あなたが世界中で最も偉大な監督であると、誰もが認めることになるでしょう」


長年、アメリカでの評価にフラストレーションを募らせてきたヒッチコックは、

この若きフランス人監督からの手紙を読んで涙が出たと告白しています。

とっても素敵なエピソード。


こうして、映画史に残る歴史的なインタビューが実現したのです。

その後、名著「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」が生まれ、

トリュフォーの予言どおり、ヒッチコックは超一流の"作家"として、

世界から認められることとなったのです。


一通の手紙から始まった、歴史的な物語。

2人の映画を観たことがない方にも、おすすめしたい一作です。


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『ヒッチコック/トリュフォー』
DVD 5,280円(税込)
発売・販売元:ギャガ
©COHEN MEDIA GROUP/ARTLINE FILMS/ARTE FRANCE 2015 ALL RIGHTS RESERVED. PHOTOS BY PHILIPPE HALSMAN/MAGNUM PHOTOS

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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