主役は、物語を進める人。
脇役は、物語に深みを与える人。
名作と呼ばれる作品には、華のある主役だけでなく、
名脇役も欠かすことができません。
彼らは、主人公が越えなければならない巨大な壁としてあらわれるときもあれば、
ときには二人三脚で主人公を支える存在だったりと、
様々な形で映画に彩りを与えていきます。
彼らのバックアップのおかげで主人公は成長し、
ストーリーにも奥行きが生まれる。作品が立体的になる。
今年のアカデミー賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』には、
主人公に寄り添うゲイの画家を味わい深く演じた
リチャード・ジェンキンスがいました。
昨年の話題をさらった感動作『ドリーム』では、あのケビン・コスナーが、
NASAを支えたヒロインたちの上司として爽快な演技を披露し、
映画の魅力を何倍にも引き立てていました。
そして個人的に"近年最高の名脇役!"と思っているのが、
『シング・ストリート 未来へのうた』のジャック・レイナーなのです。
まずは、映画の内容をどうぞ。
***
大不況にあえぐ85年のアイルランド、ダブリン。
14歳の少年コナーは、父親が失業したために荒れた公立校に転校させられてしまう。
さらに家では両親のケンカが絶えず、家庭は崩壊の危機に陥っていた。
最悪な日々を送るコナーにとって唯一の楽しみは、
音楽マニアの兄と一緒に隣国ロンドンのミュージックビデオをテレビで見ること。
そんなある日、街で見かけた少女ラフィナの大人びた魅力に心を奪われたコナーは、
自分のバンドのミュージックビデオに出演しないかとラフィナを誘ってしまう。
慌ててバンドを結成したコナーは、
ロンドンの音楽シーンを驚かせるミュージックビデオを作るべく猛特訓を開始するが…
***
ジャック・レイナーが演じるのは、音楽マニアの兄。
頭はボサボサで、同じような服ばかり着て、さらに引きこもりなんですけど、
音楽への情熱がとにかくハンパない。
弟がバンドを始めたと言えば、おすすめレコードをいろいろ出してくれたり、
デュラン・デュランのコピーをすれば、
「他人の曲で女の子を口説くな!」なんて鋭い助言までしてくれる。
しかも、そんな兄のロックの趣味の良さが弟のバンドのオリジナル曲にも、
思いっきり影響を与えていくのです。
なんて理想的な兄弟像。
ちなみに、この役のモデルになったのは、
2013年に他界したジョン・カーニー監督の実兄ジム・カーニー。
だからこんなにも、イキイキとした役になってるんですね。
そう、じつは本作、監督の半自伝的な作品でもあるのです。
未見の方は、今週末にでもご覧になってみてください。
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『シング・ストリート 未来へのうた』
DVD 1,143円(税抜)
発売・販売元:ギャガ
(C)2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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