おもしろいエピソードを思い出しました。
1995年、長編初のフルCGアニメとして、
初代『トイ・ストーリー』が公開されました。
その完成度の高さは、ぼくたちの想像を遥かに超えるもので、
アンチデジタル派も認めざるを得ないほどのレベルに。
巷の話題は『トイ・ストーリー』一色となり、
そのときのテレビや雑誌では有識者たちが真顔でこんなことも言っていました。
「近い将来、役者という職業はなくなるね」
いま聞くと「いやいや…」となりますが、
実際ぼくの周囲にいた役者たちも真剣に頭を悩ませていたものです。
そしてデジタル化は加速したわけですが、その一方で、
アナログカルチャーのリバイバルというおもしろい現象も起こりました。
「山登り」や「DIY」「カセットテープ」「ワークショップ」という、
ひと手間かかるモノやコトが見直されるきっかけにもなったのです。
役者だって、元気に存在しています。
そんな時代を象徴する映画監督といえば、ミシェル・ゴンドリーです。
現代的なセンスで切り取る実写映像の中に、
彼はコマ撮りという古典的アニメーション技法をミックスさせます。
さまざまな、手作りアイテムを使って。
そのアナログな手法は、デジタル全盛のいまだからこそ、
1周回って新しい!のだと思います。
中でも、『グッバイ、サマー』に登場する"動くログハウス"は、
これを作りたいがために映画を作ったのでは?と思えるほど、
とてもクリエイティブな手作りアイテムとなっています。
***
画家を目指すダニエルは沢山の悩みを抱えていた。
中学生になっても女の子のような容姿で、
クラスメイトからチビと呼ばれて馬鹿にされ、
恋するローラにはまったく相手にされていない。
おまけに母親は過干渉で、兄貴は暴力的なパンク野郎だ。
誰も本当の自分を理解してくれる人はいない…
そんなある日、クラスに変わり者の転校生がやってきた。
名前はテオ。目立ちたがり屋で、
趣味の機械いじりのせいで服にガソリンの匂いを漂わせている。
周囲から浮いた二人は意気投合し、
学校や家族が自分たちを枠にはめて管理しようとする
息苦しい毎日から脱出するための"ある計画"を考え付く。
それは、"動くログハウス"を作り、夏休みに旅に出ることだった。
***
"動くログハウス"について、いろいろ紹介したいところなのですが、
こればかりは実際に観てもらいたいので、詳細は省きます。
ただ本作は、ゴンドリーの自伝的なストーリーです。
彼はダニエルにように内気で、絵を描くことやアイディアを考えるのが
大好きな少年だったようですが、"動くログハウス"に関しては、
完全なフィクションだそう。
行動力のある彼でも叶えられなかった夢こそが、
この"動くログハウス"なわけです。
これは観ないと!ですよね。
劇中のダニエルとテオにとっても、
一生忘れられない宝物になったであろう"動くログハウス"。
キュートな見た目だけでなく、
そのハイスペックぶりには、口を開けて驚き、
爆笑してしまうこと間違いなしです。お楽しみあれ!
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『グッバイ、サマー<スペシャル・プライス>』
DVD:1,320円
発売中
発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C)PARTIZAN FILMS - STUDIOCANAL 2015
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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