担当編集のKさんから、
時代性を感じる素敵なお題をいただきました。
シスターフッド、とは。
「もともと家父長制といった男性社会に屈しない、
対抗する女性同士の連帯・絆を指す言葉。
近年では、新しい時代の女性像として注目を集めるようになる」
という意味だそうです。
じつは2020年の映画界は、
シスターフッドムービーの当たり年と言われていて、
中でも下記の3本は、
このジャンルにおける"傑作"と言い切ってしまっていい作品になります。
まずは、現代のハリウッドを背負う三大女優、
シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーの豪華共演で、
全米最大のTV局FOXニュースで起きた
セクハラ・スキャンダルの全貌を映画化した『スキャンダル』。
2本目は、女子高生2人組が高校最後の一夜に繰り広げる大騒動を描いた、
爆走青春コメディー『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』。
そして「スーサイド・スクワッド」でジョーカーの恋人として登場した
ハーレイ・クインを主役にしたアクション
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』。
このいずれかを最初は紹介しようと思ったのですが、
それでは芸がないかな、と考え直し、
今回は"シスターフッド"が再燃するきっかけにもなった
"#me too運動"より前の時代から選ぶことに。
そこで思い付いたのが、
フランスのエリック・ロメール監督作『レネットとミラベルの四つの冒険』。
対照的な2人の少女レネットとミラベルが体験する不思議な出来事を、
4つのエピソードでつづったオムニバス作品です。
こんな内容。
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第1話「青い時間」
自転車のパンクをきっかけに知り合った2人が、
夜明け前に訪れる無音の瞬間を体験するべく奮闘する。
第2話「カフェのボーイ」
パリで同居生活をはじめた2人と奇妙なカフェ店員とのやり取りを描く。
第3話「物乞い 窃盗常習犯 女詐欺師」
犯罪や良心についての対話をひたすら繰り広げるお話。
第4話「絵の売買」
家賃を稼ぐためレネットが描いた絵を売ろうと奔走する。
***
以上の四話で構成されています。
一話は、20分ちょっと。
少女ふたりのささやかな冒険を、
少人数のスタッフと16ミリフィルムを使って撮影。
ほっと肩の力が抜けたようなホームムービー的なヘタウマ感もこの映画の魅力です。
各エピソードはゆるく繋がっているので、ぜひ、通しで観てください。
見どころは、パリっ子のミラベルと、田舎出身レネットの対比です。
2人は偶然出会ってすぐに仲良くはなりますが、
ものすごく仲良くなるというわけではない。
性格が全然違うので、事あるごとに意見がぶつかりあいます。
でも一緒にいる。
ベタベタの仲良しではなく、それぞれが自立してるんですね。
そこがいい。違いを認め合ってる。
本作は、各エピソードで巻き起こる事件をきっかけに、
2人の倫理観の違いが浮かび上がる構成になっています。
つまり、時間とともにシスターフッド感が増していく2人の姿が楽しめるわけです。
特におすすめは、第1話の「青い時間」。
もしかしたら、ロメールの全作品で考えてもNo.1かも。
虫が鳴く夜の時間、鳥が鳴く朝の時間、その二つの間に一瞬の静寂がある。
2人だけが共有する一瞬までの時間を丁寧に描き、
気持ちが通じ合う瞬間を目と耳で感じられる。
それを映画にしてしまう発想自体が素敵すぎます。
ロメールらしい魔法のような時間の描き方。
鑑賞後は、きっと、仲良しのあの子に会いたくなるはず。
2人で一緒に観るのも楽しいかもしれません。
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『レネットとミラベルの四つの冒険』
DVD 4,800円+税
発売・販売元:紀伊國屋書店
©1985 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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