人生初のひとり暮らしは、20歳の春でした。
サッカーの専門学校に入学した関係で、東京から石川県へと越境。
同じ専門学生ばかりの入居するアパートが、ぼくの小さなお城となりました。
間取りは、1K。
アニエス・ベーで買ったゴダールのポスター、
海外のファッション・スナップを壁に貼る。
間接照明を用意する。
スタジオボイスや映画雑誌などは、床に積む。
BGMは、スウェーデンのクラウドベリー・ジャム、
アメリカのベン・フォールズ・ファイヴ、
ウディ・アレン『ラジオ・デイズ』のサントラをヘビーローテーション
(数ヶ月前まで、BOOWYとユニコーンだったくせに、、、)
これが25年前の僕のひとり暮らしになります。
背伸びにもほどがある。いやはや、気恥ずかしいかぎりです。
でも、いい悪いは別として、
そうやって自分の意思で選んだモノが集まる
ひとり暮らし空間って魅力的ですよね。
おしゃれかどうか以上に、
住んでいる人の個性が"空間全体"から滲み出る面白さがある。
その目線で観たときにグッとくるのが、
90歳の名優ハリー・ディーン・スタントン最後の主演作となった『ラッキー』。
キナリノ女子には縁遠い世界観かもしれませんが(インテリアや暮らし方など)、
ぜひご紹介をさせてください。
まず、ストーリーから。
こんな感じとなっています。
***
神など信じずに生きてきた90歳の男ラッキー。
ひとりで暮らす部屋で目を覚ますとコーヒーを飲んでタバコをふかし、
なじみのバーで常連客たちと酒を飲む。
そんなある日、自分に人生の終わりが近づいていることに気付いた彼は、
「死」について思いを巡らせる。
子どもの頃に怖かった暗闇、去っていったペットの亀、
戦禍の中で微笑んだ日本人少女。
小さな町の住人たちとの交流の中で、彼は「それ」を悟っていく…
***
本作は、『レオン』や『フォレスト・ガンプ』と同じく、
伝記映画でないにも関わらず、主人公の名前がタイトルとなっています。
このようなタイプの作品は、
主人公の個性そのものがストーリーの中心軸となるため、
特徴ある人物像の描き方が大切になってきます。
しかしラッキーさんは、
レオンさんやフォレストさんのような特殊能力を持っているわけではない、
ただの一般人です。
なので、そこで描かれるのは、淡々とした日常のルーティーン。
でもこれが不思議と、観ているだけで面白いんです。
朝、目を覚ましたら、コーヒーを飲んで、タバコをふかす。
ヨガを5ポーズ、21回こなす。
そのあとは、テンガロンハットをかぶって、行きつけのダイナーへ。
店主のジョーと無駄話をかわし、
ウェイトレスのロレッタが注いでくれたミルクと砂糖多めのコーヒーを飲む。
新聞のクロスワード・パズルを解く。
メキシコ人ビビの営む雑貨店でタバコとミルクを補充する。
夜はバーで、ブラッディー・マリアを飲む。
これら日常のルーティーンから滲み出てくるラッキーの人間性。
いちいちカッコよくて、いちいちカッコ悪い。
決しておしゃれなライフスタイルなどではないですが、
"その空間"から滲み出る日常感が、何だかとってもいいんです。
のびのびと自分の時間を謳歌している姿が羨ましくなったり、
「自分にも小さなルーティーンがあったなあ」なんて思い出したり。
ラッキーを観ていると、
ひとり暮らしを楽しんでいたときの時間が次々とオーバーラップし、
ひととき、心踊る時間を過ごすことができるのです。
「ありのままの日常が、いちばん愛おしい」
そんな言葉に心が動いた方は、この週末にでもぜひ。
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『ラッキー』
DVD 3,800円+税
発売元:アップリンク
販売元:TCエンタテインメント
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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