キノ・イグルーの週末シネマ​ no.168
男はつらいよ|いま観ると新鮮!愛おしき日本映画の名シリーのカバー画像

男はつらいよ|いま観ると新鮮!愛おしき日本映画の名シリーズ

文:キノ・イグルー 有坂塁

男はつらいよ|監督:山田洋次ほか(1969~1997年・日本)

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2020年09月04日作成



じつは。

昔から昭和の人情映画に対し、ちょっとした苦手意識があります。

嫌いではありません。

ただ優先順位をつけると、後回しになってしまいがちなのです。


ホラーよりも、あと。

18禁コメディーよりも、○○ THE MOVIEよりも、あと。

スティーブン・セガールやジャン=クロード・ヴァン・ダム

(つまり、オレ様的なアクション映画)よりも、ずっとあと。


なぜか。考えてみました。

まず、説明的で、道徳的。

じめっとした湿度高めな世界観が、どうにもフィットしない。

そんな昭和の日本的な要素に対する違和感に加え、

先祖代々、海外志向が強いことも理由かもしれません(誰も演歌を聴かない!)


そんなこんなで、今回紹介する『男はつらいよ』シリーズを初めて観たのも、

平成が終わりに差し掛かった2017年でした。


そろそろ観ておかないとな~、

というぐらいの軽い気持ちで一作目を観てみたら、

完全に心を奪われ、シリーズを制覇!

苦手意識はどこへやら (笑)


50年かけて作られた、50本の寅さん。

まだ観たことがない方のために、

ここでは、第1作目のストーリーを記しておこうと思います。


***


《第1作目》

中学の時に家出し、テキヤ稼業で全国を渡り歩く寅さんは、

たった一人の妹・さくらが

柴又のおいちゃん夫婦に世話になっていると聞いて懐かしの故郷へ。

さくらの縁談話にひと肌脱ごうと張り切るが、何もかもぶち壊し。

いたたまれなく奈良へ旅に出ると、

御前様の娘・冬子に声をかけられ一目惚れしてまた柴又へ。

帰ると隣りの印刷工場職人・博がさくらと交際させてくれと寅さんに迫る。

そして二人の結婚。

しかし、寅さんの冬子への想いは叶わぬ夢だった…


***


第1作目が公開されたのは、1969年です。

当初は、全5作でシリーズを完結させる予定だったのが、

大ヒットを記録したため、継続する方向へ。

そこから四半世紀のロングランを誇る国民的映画となった

というのだから驚きます。


全エピソードの原作と脚本を担当したのは、名匠・山田洋次。

(第3、4作を除いた48作の監督も担当)

期せずして、彼のライフワークとなった本作は、

「1人のスターが出演する世界最長の映画シリーズ」として

ギネス記録にも認定されています。


そして物語は、周知の通り、ほぼパターン化されています。

「テキ屋を営み、全国を旅して生きている車寅次郎が

ひょんなことから生まれ故郷の葛飾柴又に戻ってきては、

故郷や旅の道中で出会った女性への恋心を募らせ、

結局は実らなかった恋を忘れるためまた旅に出る…」

この "マンネリ" とも呼べる展開は、

むしろ観客に歓迎され、「待ってました!」とばかりに喜ばれてきました。

安心して楽しめるのが良かったのでしょう。


そんな型にはまった内容にも関わらず、

寅さんの行動や言動は、予測不能なんですね。

このギャップが面白い。

「人間、こうあるべき」なんていう常識や枠組を、

寅さんが、気持ち良くぶっ壊してくれるわけです。


ピュアで、不器用で、愛がある。

最初は「めんどくさい人だな…」と思いつつ、

いつの間にか、寅さんに夢中になっている自分に気がつくはずです。


このシリーズは、途中から、

盆と正月という年2回のペースで公開されました。

「盆と正月になったら、寅さんに会える」

この"ストーリー"を作ったことが、大きな発明だったと思います。
昭和の日本人の"年間行事"には、

当たり前のように、寅さんが存在していたのですから。

松竹、お見事!


これから本シリーズをご覧になる方も、

盆と正月に1本ずつ観ていくというのはいかがでしょう。

じっくりと25年もかけて、楽しめるものがあるなんて、

それだけで豊かな人生だと思いませんか?


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190,000円+税
好評発売中
発売・販売元:松竹
©松竹株式会社
※掲載画像はBD1巻となります
※2020年9月時点の情報です

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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