キノ・イグルーの週末シネマ​ no.109
勝手にしやがれ|軽やかでキュートショートヘアの彼女に夢のカバー画像

勝手にしやがれ|軽やかでキュートショートヘアの彼女に夢中

文:キノ・イグルー 有坂塁

勝手にしやがれ|監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール(1959年・フランス)

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2019年07月19日作成



ロングでサラサラが好き。

これは、俗に言う"男子あるある"です。


大人ではなく思春期限定になりますが、

「ショートにするとか意味わかんない!」

と平気で言ってしまう友だちもいたほど、

思春期男子にとっての正義は、ロングでサラサラだったのです。


当然ぼくも、ロングでサラサラ好きだったのですが、

1997年にその価値観がひっくり返るぐらいの出来事が

なんと同時に2つも起きたのです。


ひとつ目は、スペースシャワーTVで見た、ある人の存在。

その人はカジヒデキがプロデュースした楽曲「ブルーでハッピーがいい」を、

ベリーショートの髪型で歌っていました。

妖精のような、愛らしい雰囲気。

かわいい!文字どおり目を奪われました。

彼女は、現在も活躍しているアーティストChocolatさんでした。



そして、ふたつ目。

これが嘘みたいな話なのですが、

いま書いたChocolatさんを知った数時間後の話になります。

アルバイトから帰ってきたぼくは、

レンタルしてきたビデオを観ることになったのですが、

その作品こそが、ベリーショートの代名詞

ジーン・セバーグが主演した『勝手にしやがれ』(1959)だったのです。

ただの偶然ですが、それにしたって…


***

警官を殺してパリに逃げて来た自転車泥棒のミシェルは、

アメリカ人の恋人パトリシアとお互い自由で束縛のない関係を楽しんでいた。

そんなある日、彼の元に警察の手が及んでくる。

パトリシアはミシェルの愛を確かめる為、彼の居場所を警察に密告、

そして彼にも同様に警察が追ってきた事を伝えるが…

***


本作の中でジーン・セバーグは、

パリに留学中のアメリカ人パトリシアを演じているのですが、

その登場シーンから、言葉を失うほどに素晴らしいのです。


夏の光輝くシャンゼリゼ通りを、

「ニューヨーク・ヘラルド・トリビュ~ン、

 ニューヨーク・ヘラルド・トリビュ~ン!」

と言いながら、新聞を売り歩いている彼女。


そのファッションは、

新聞社のロゴが入ったぴったりとしたTシャツに細身のパンツ、

足元はぺったんこシューズ、手には小さな巾着のようなバッグ。

そして髪型が、ベリーショートの"セシルカット"なのです。

あまりにフォトジェニックな登場シーン。

完全にぼくのハートは打ち抜かれてしまいました。

言語化できないレベルで、心が動いた。恋と同じ感覚です。


しかも、たった数時間前に同じ髪型のChocolatに

心を持っていかれているわけですから、

それは、運命を感じてしまいますよね。

この日は、ぼくの中で生涯忘れられない一日として、

インプットされています。


ちなみに"セシルカット"とは、

映画『悲しみよこんにちは』(1958)で、

ジーン・セバーグ演じたセシルのショートヘアから名付けられたもの。


もしかしたら『勝手にしやがれ』のゴダール監督も、

ベリーショートの彼女に恋をして、

パトリシア役にキャスティングしたのかもしれませんね。


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『勝手にしやがれ』
DVD 1,000円(税抜)
発売・販売元:KADOKAWA

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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