"映画音楽"といったら、どんなタイトルが思い浮かぶでしょう?
僕と同世代の方なら、『フットルース』、
『グーニーズ』、『ネバーエンディング・ストーリー』といった
80年代の作品を思い浮かべるかもしれません。
この時代は、ちょっと特殊。
「MTV」の放送が開始され、音楽は"聴く"だけのものではなく、
映像と併せて"観る"楽しみが加わりました。
映画の名場面集のようなミュージックビデオがヘビロテされ、
瞬く間に、全米ヒットチャート1位を獲得。
相乗効果で映画まで大ヒットするという、
何とも幸福な時代だったのでした(メディアミックスの走りですね)。
この時代における映画音楽のキーワードは、"大ヒットテーマ曲"でした。
しかし90年代になると、風向きが変わります。
『ゴースト/ニューヨークの幻』『タイタニック』など80'sの名残を持った作品の一方で、
『トレインスポッティング』や『パルプ・フィクション』
『ヴァージン・スーサイズ』といった新しい風を感じる作品が生まれてきました。
映画音楽のキーワードは、ズバリ"選曲の妙"。
耳のいい監督が、各場面に合った音楽を自らチョイス。
古今東西、時代も飛び越えた個性的な選曲の数々は、
サントラの枠に収まりきらない上質なコンピレーションCDのよう。
これが、DJカルチャーが花開いた90年代的な"編集感覚"なのかもしれません。
そんな時代を象徴する傑作のひとつが、
ベン・スティラーの初監督作『リアリティ・バイツ』。
これは観たことがある方なら、ナットクしてくれるはず。
青春群像劇ながら、どこか音楽映画のような感触も併せ持った逸品で、
サントラも話題になりました!
まずはこちらのストーリーから、ご確認ください。
***
大学の卒業式で総代としてスピーチしたリレイナはTV局に就職してADになるが、
退屈な仕事にうんざりし、ある番組の司会とケンカをしたために失業してしまう。
一方、同じように失業してしまった男性の友人トロイは仲間のサミーを連れて、
リレイナとルームメイトのヴィッキーが住むアパートで居候するように。
トロイはリレイナを好きになるが、
リレイナはすでにMTVで働くマイケルに好意を抱くようになっていて…
***
本作の軸は、"ジェネレーションX"と呼ばれる
1961~81年生まれの若者たちの日常で、彼らの漠然とした未来に対する不安が、
この映画には通奏低音として響いています。
ウィノナ・ライダー演じるリレイナは、
大学の卒業式でこのようなスピーチを披露します。
「今の若者は、たかがBMWを買うために週80時間も働いたりしません。
60年代に反体制やカルチャー革命を謳った人々は、
今や無心に毎朝ジョギングする始末。
では、現在の私たちはどう生きるべきか。
受け継いだ重荷をどうすべきか。
卒業生の皆さん、
答えはいたって簡単です。
その答えは……答えは……
I don't know!!」
これが映画の冒頭です。
「わかりません!!」から始まる物語。
こうなると、ジェネレーションX世代の "感覚そのもの"にウソっぽさが出てしまうと、
もはやアウト。映画は成立しません。
そこで直接、感覚へ訴えかける"音楽"が、とても重要になってくるわけです。
バシッといまを感じる絶妙な選曲。
劇中では、こんな楽曲が使用されました。
ザ・ナック「My Sharona」
ビッグ・マウンテン「Baby, I Love Your Way」
U2「All I Want Is You」
レニー・クラヴィッツ「Spinning Around Over」
ダイナソーJr.「Turnip Farm」
スクイーズ「Tempted」など。
懐かいロックから、レゲエ、オルタナロック、ポストパンク。
ジャンルはバラバラなのに、一貫性を感じる抜群のセンス。
中でも、素晴らしかったのが、
シンガーソングライターのリサ・ローブが歌う「Stay (I Missed You)」です。
爽やかな歌声と、みずみずしいフィーリング。
全米No.1に輝くほど大ヒットした曲ですが、
このサウンドトラックに起用されるまで、
リサ・ローブ自身はまったくの無名だったそう。
何でも彼女は、イーサン・ホーク主宰の劇団に所属していて、
映画のテーマにぴったりだからという理由で、
イーサンがベン・スティラーに紹介をし、サウンドトラックに収録されたのだとか。
そして、レコード会社との契約がないアーティストとしては
ビルボード史上初となる1位を獲得したのです!いい話!
そんな素敵な作品『リアリティ・バイツ』。
これから観られるみなさんが、本当にうらやましい!
この週末にでも、ご覧になってみてくださいね。
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『リアリティ・バイツ』
Blu-ray 2,075円(税込)
Blu-ray&DVD 発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
©1994 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
※2021年9月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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