キノ・イグルーの週末シネマ​ no.105
はじまりへの旅|未来を照らす新しい暮らしのカバー画像

はじまりへの旅|未来を照らす新しい暮らし方

文:キノ・イグルー 有坂塁

はじまりへの旅|監督・脚本:マット・ロス(2016年・アメリカ)

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2019年06月21日作成



ライフスタイルの多様化にともない、

しあわせの基準はいまや十人十色。

自分らしくカスタマイズした

働き方、暮らし方をもとめることは特別なことなどではなく、

スタンダードにさえなっている気がします。


そんな時代の空気に呼応するように、

映画界でも"暮らし"を見つめ直す作品が増加中。

中でもドキュメンタリーは、

ここ10年ほどで見応えある作品が極端に増えました。


たとえば。

モノにあふれた生活をリセットしようと思い立ち、

自らが実験台となるフィンランド映画『365日のシンプルライフ』や、

女優であり母でもあるメラニー・ロランが、

幸せに暮らすためのライフスタイルを探すために旅に出る

『TOMORROW パーマネントライフを探して』、

他にも『人生フルーツ』や『おだやかな革命』などの日本映画まで、

何本もの作品を思い出すことができます。


でも今回ご紹介する作品は、ドキュメンタリーではありません。

せっかく2時間を使っていただくので、

見ごたえある物語も一緒に楽しんで!という意味を込め、

ヴィゴ・モーテンセン主演の『はじまりへの旅』をご用意しました。


***

ベン・キャッシュと6人の子供たちは、

現代社会に触れることなくアメリカ北西部の森深くで暮らしていた。

父仕込みの訓練と教育で子供たちの体力はアスリート並み。

みな6ヶ国語を操り、18歳の長男は名立たる大学すべてに合格。

しかしある日入院していた母・レスリーが亡くなり、

一家は葬儀のため、そして母の最後のある"願い"をかなえるため旅に出る。

葬儀の行われるニューメキシコまでは2400キロ。

ノーム・チョムスキーは知っていても、

コーラもホットドッグも知らない世間知らずの彼らは果たして、

母の願いを叶えることが出来るのか…


***


本作のテーマは、

「普通とはなにか」「自分らしさとはなにか」という普遍的な問いです。

これを考えるための設定として"極端な暮らし"がある。


どれだけ極端かといえば、

6人のこどもたちは生まれてこのかた森を出たことがなく、

火おこしや煮炊き、庭仕事なども自分たちでおこない、

教育は森の中のホームスクール。

社会学、哲学、複数言語などを父から学び、

1日の終わりには焚き火のもとで読書に耽る。

およそ現代とは思えない、原始的なライフスタイルなのです。


ここでフィクションの良さが生きてきます。

ぼくたち観客は、物語のなかにどっぷりと入り込むことで

この"極端な暮らし"を追体験することになる。

この振り切った環境を、自分事として感じることができるわけです。

そして上映が終わり、現実世界へと戻ってくると、

嘘みたいに思考がダイナミックになっている。

もしかしたら、自分自身でも驚くようなアイデアが

湧き上がってくるかもしれません。


この独創的なロードムービーには、それだけの力が宿っていると思います。

早速、この週末にでも観てみてくださいね。Bon voyage!


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『はじまりへの旅』
DVD 3,800円+税
発売・販売元:松竹
© 2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
※2019年06月時点の情報です

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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