パリは好きだけど、
フランス映画は苦手、という話をよく聞きます。
"淡々としてる""理屈っぽい""カタルシスがない"
そんなイメージ。
僕自身も、映画を好きになりたての20歳前後のときは、
同様の理由から苦手意識を持っていました。
フランス語のねっとりとした発音もダメで。
それが解消されたのは、
名作『勝手にしやがれ』(1959) を観たときです。
編集にスピード感があって、映像もシャープ。
フランス映画特有のジメっとした感じがなく、
全体的にスタイリッシュな仕上がり。
僕の知っているフランス映画とは、何から何までが違っていたのです。
加えて、時は90年代中期。
渋谷系カルチャーの影響から、
おしゃれな60'sムービーのリバイバル上映が盛んなときで、
そんな"時代の空気"も後押ししてくれた気がします。
(観ていると、おしゃれな気持ちになれたという恥ずかしい理由で…笑)
では、2022年のこの瞬間に、
フランス映画の初心者さんへおすすめしたい作品は何かといえば、
それはもちろん『エール!』となるわけです。
その理由は後ほど。
まずはストーリーからご確認ください。
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フランスの田舎町に暮らすベリエ家は、
高校生の長女ポーラ以外の全員が聴覚障害者だったが、
「家族はひとつ」 を合い言葉に明るく幸せな毎日を送っていた。
ある日、ポーラは音楽教師からパリの音楽学校への進学を勧められる。
しかしポーラの歌声を聴くことのできない家族は、
彼女の才能を信じることができない。
家族から猛反対を受けたポーラは、進学を諦めようとするが…
***
なぜ、こちらが"いま"おすすめかと言うと、
まさに現在、本作のリメイク版が大ヒット公開中だからです。
今回の『エール!』を気に入れば、
すぐさま"映画館"でリメイク版が観られる。
何という良きタイミング。
その作品とは、『コーダ あいのうた』。
第94回アカデミー賞にて、作品賞を始め、助演男優賞、脚色賞も受賞し、
みんなのハートを揺さぶり続ける爽やかな感動作です。
オスカー受賞で火がついて以降も、
「ここ最近で一番号泣!」「早くも今年ベスト」など観た人の口コミが止まらず、
現在では300館以上に拡大公開されるという
理想的な広がりを見せている話題作で、
そのオリジナル版こそが、フランス映画『エール!』なのです。
オリジナルとリメイク。
どこが、どう違うのか気になるかと思いますが、
作品の根幹となる部分は、ほとんど一緒です。
設定やストーリー以外も、名場面までもが踏襲されており、
オリジナル版への強いリスペクトを感じる、
愛のこもったリメイク作品となっています。
そして、ここが大きなポイントだと思うのですが、
そもそも『エール!』という作品自体が、フランス映画っぽくないんですね。
"淡々としてる""理屈っぽい""カタルシスがない"
というようなフランス映画ではなく、
ワクワクする展開と感動が同時に楽しめる作品になっている。
なので、フランス映画が好き人には
"逆に"勧めづらい作品になっているのだけど(笑)
わかりやすいストーリー自体が少ないフランス映画。
その中では、めずらしくハートフル・コメディ要素の強い、
良質なヒューマンドラマとなっています。
あまり構えずに。
ぜひ、リラックスした気持ちで、お楽しみください。
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『エール!』
DVD 3,080円(税込)
Blu-ray 4,180 (税込)
提供:ニューセレクト株式会社/株式会社クロックワークス
販売:アルバトロス
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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