ウディ・アレン。
ぼくが初めて好きになった映画監督です。
きっかけは、1995年に恵比寿ガーデンシネマで観た
『ブロードウェイと銃弾』。
その作品を観てぼくは初めて"出演している人"ではなく、
"カメラの裏側の人"に興味を持ちました。
何でこんなに面白い映画が作れるんだろう?
心がザワつきました。
まるでピカソの絵画を見るように、
映画をひとつの「作品」として観ることができた。
それはぼくの中の映画史において、とても重要な出来事でした。
美意識がアップデートされた瞬間だったからです。
以来、ウディは特別な監督となり、
その時点で22本あった過去作をすべて3回ずつ鑑賞し、
さらに彼が影響を受けた映画も片っぱしから追っていくという惚れ込みようでした。
ところが、『ギター弾きの恋』(1999年) 以降、
彼の作品を観てもしっくりこなくなってきている自分がいました。
同時に『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のウェス・アンダーソンを始めとした、
同時代の才能あふれる監督たちにぼくはすっかり夢中になり、
ウディは過去の人となってしまったのです。
とはいえ、その後も年に1本公開されるウディの新作を、
恒例行事のような気持ちで10年ほど観に行っていたのですが、
2011年に発表された作品が、まさかの大傑作に仕上がっていて、
ぼくは再び彼の虜になってしまいます。
その作品が、今回紹介する『ミッドナイト・イン・パリ』なのです。
***
ハリウッドの脚本家ギルは、婚約者とその両親と共に憧れのパリに滞在中。
そんな彼がある夜、0時を告げる鐘の音に導かれて迷い込んだ先は、
芸術花開く1920年代だった!
これは夢か幻かと驚くギルの前に、次から次へと偉人を名乗る面々と、
妖艶な美女アドリアナが現れて…
***
もう、オープニングから最高!
セーヌ川、エッフェル塔、モンマルトルなどの美しいパリの映像が、
名曲「Si Tu Vois Ma Mère」に乗せて映し出されます。
うっとりとしてしまう、憧れのパリ。
さらに「老人と海」のヘミングウェイや、
「華麗なるギャツビー」のF・スコット・フィッツジェラルド、
他にも、ピカソ、ダリ、ロートレック、ゴーギャンという、
読書好き、絵画好きにはたまらない芸術家たちがたくさん登場します。
そして何より素晴らしいのは、そんなアート好きが喜ぶような設定を、
誰もが楽しめるロマンティックコメディに仕上げたところ。
物語の構成も巧みだし、エンディングも秀逸。遊び心もたっぷり。
長い間、停滞していた76歳のウディの想像力が、
ここにきて大爆発したのです。これぞ、円熟の境地。
そんな奇想天外な作品から、みなさんもたくさんの刺激をもらってください。
間違いなく、美意識が磨かれますよ。
ついでにパリにも行きたくなってしまうので、こちらはどうぞご注意を。
************************************************
『ミッドナイト・イン・パリ』
DVD 1,800円(税抜)
発売・販売元:株式会社KADOKAWA
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site