一年に一回は、家族や親戚があつまって、
のんびり過ごす時間を作りたいものです。
お盆でも、お正月でも。
おいしいものを食べて、酒を呑んで、
昔のように笑い合いながら、他愛のない話をして。
それに飽きたら、適当に昼寝したり、TV見たり、猫と遊んだりすればいい。
よく考えたら、そういった何も決まっていない宙ぶらりんの時間は、
家族だからこそ許されるんですよね。
忙しくなるばかりの現代人の日常において
"余白の時間"は意識的に作り出していかないと、と最近強く思います。
心のバランスをとるためにも。
今回ご紹介する『歩いても 歩いても』は、
そんな"余白の時間"そのものを映画にしてしまったような大胆な一作。
だって、なんでもない日常を映画にするだけでもすごいのに、
是枝作品の中でNo.1なのでは!?というほど、
映画として面白いんですから…
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夏の終わりに、横山良多は妻と息子を連れて実家を訪れた。
開業医だった父とそりのあわない良多は失業中のこともあり、
ひさびさの帰郷も気が重い。
明るい姉の一家も来て、横山家には久しぶりに笑い声が響く。
得意料理をつぎつぎにこしらえる母と、
相変わらず家長としての威厳にこだわる父。
ありふれた家族の風景だが、
今日は15年前に亡くなった横山家の長男の命日だった…
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映画の中で流れる時間は、24時間ほどです。
そのゆっくりとしたときの流れが、とにかく心地いい。
同じ2時間を使って誰かの一生を描くハリウッド映画とは、
正反対の時間感覚になっています。
(もちろん、どちらがいいではなく、どちらもいい)
そうなると、日常生活のディテールが大事になってくる。
この映画では、ひさしぶりにこどもや孫を迎えた樹木希林さん演じる母が、
腕によりをかけた得意料理を数々披露してくれます。
大根のきんぴら、豚の角煮、枝豆とみょうがの混ぜ寿司…
中でも、とうもろこしのかき揚げのシーンは必見です。
とうもろこしの粒取りをするところも楽しそうだし、
それを手づかみで食べるところがまたいいんです。
観ているだけでお腹が空いてくる!
このような日常における"あるある"描写を是枝監督は丁寧に描くので、
観ているこちらの記憶も刺激されます。
ぼくはこの映画を観たあと、無性に家族に会いたくなりました。
もしこれを読んで「観たい!」と思った方は、早速、この週末にでもぜひ。
いつ観てもすばらしい作品ですが、
夏の終わりに出会えてよかった!と思えること間違いなしですので。
ああ、これから観られるなんて、うらやましい!
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『歩いても 歩いても』
DVD 3800円(税別)
発売中
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
(C)2008「歩いても 歩いても」製作委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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