映画を選ぶとき、「海辺の町」というお題なら、
当然、海そのものが"絵"として
どれだけ映っているかということをまず考えます。
真っ青な海。さざなみ。浜辺で遊ぶ子どもたち。
船上からの風景。サーフィンをする若者たち。
こういった断片的イメージから連想しようと試みるのですが、
今回に限ってはその前段階でパッと
『ホテル・ハイビスカス』が思い浮かびました。
こちらは、仲宗根みいこの同名コミックを原作にした
沖縄キッズムービーなのですが、今回4年ぶりに見直してみたら、
ある意外なことに気づいてしまいました…
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沖縄のとある場所に立つホテル・ハイビスカス。
外見は古く、客室も一部屋しかない宿だが、
このホテルを営む人たちはみな明るくやさしい個性的な顔ぶれ。
三線とビリヤードが得意な父ちゃん、働き者で美人の母ちゃん、
黒人とのハーフのケンジにぃにぃ、白人とのハーフのサチコねぇねぇ、
そしていつもくわえタバコのおばぁ。
小学3年生の美恵子はこんな"インタァナソナル"な家族に囲まれ
楽しい毎日を過ごしていた。
男の子以上に元気はつらつな美恵子は、
今日も同じクラスの親友ガッパイとミンタマーを引き連れ、
森の精霊キジムナー探しに繰り出した…
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先に書いた意外なこととは、なんと!
海がワンシーンしか映っていなかったのです。
沖縄の雰囲気が画面いっぱいに広がっている作品なので、
すっかり海のシーンがいくつかあるものだと思い込んでいて、
なんならぼくの中では、泳いでいるシーンさえも存在していました。
記憶とは、じつに曖昧なものです。
実際は、冒頭のこどもたちが砂浜を行進するシーンのみ。
でも、このシーンが何とも言えず印象的なのです。
天真爛漫な3人のこどもは「ABCの歌」の
下ネタヴァージョンを楽しそうに歌いながら、
手足を高く上げ、砂浜を行進します。
バックには、大きな空と広い海。
そんなピースフルとしか言いようのない光景を、
カメラはゆっくりと横移動でとらえていくのです。
なんと優雅な時間。時間にしてわずか1分程度ですが、
とても心に残るワンシーンになっています。
そしてこの余韻があるからこそ、まるで島で暮らしているかのような、
おおらかな時間を体感できるのだと思います。
島言葉、三線、虫の声、島の風。
映像だけでなく、耳からも感じられる、心地のいい島時間。
この週末はぜひ、そんな海辺の町へショートトリップしてみてはいかがでしょうか?
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『ホテル・ハイビスカス』
Blu-ray 4,800円+税
DVD 3,800円+税
好評発売中
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
(C)2002「ホテル・ハイビスカス」パートナーズ
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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