キノ・イグルーの週末シネマ​ no.93
ホテル・ハイビスカス|潮風に抱かれて海辺ののカバー画像

ホテル・ハイビスカス|潮風に抱かれて海辺の町

文:キノ・イグルー 有坂塁

ホテル・ハイビスカス|監督:中江裕司(2002年・日本)

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2019年03月29日作成



映画を選ぶとき、「海辺の町」というお題なら、

当然、海そのものが"絵"として

どれだけ映っているかということをまず考えます。


真っ青な海。さざなみ。浜辺で遊ぶ子どもたち。

船上からの風景。サーフィンをする若者たち。


こういった断片的イメージから連想しようと試みるのですが、

今回に限ってはその前段階でパッと

『ホテル・ハイビスカス』が思い浮かびました。


こちらは、仲宗根みいこの同名コミックを原作にした

沖縄キッズムービーなのですが、今回4年ぶりに見直してみたら、

ある意外なことに気づいてしまいました…


***


沖縄のとある場所に立つホテル・ハイビスカス。

外見は古く、客室も一部屋しかない宿だが、

このホテルを営む人たちはみな明るくやさしい個性的な顔ぶれ。

三線とビリヤードが得意な父ちゃん、働き者で美人の母ちゃん、

黒人とのハーフのケンジにぃにぃ、白人とのハーフのサチコねぇねぇ、

そしていつもくわえタバコのおばぁ。

小学3年生の美恵子はこんな"インタァナソナル"な家族に囲まれ

楽しい毎日を過ごしていた。

男の子以上に元気はつらつな美恵子は、

今日も同じクラスの親友ガッパイとミンタマーを引き連れ、

森の精霊キジムナー探しに繰り出した…


***


先に書いた意外なこととは、なんと!

海がワンシーンしか映っていなかったのです。

沖縄の雰囲気が画面いっぱいに広がっている作品なので、

すっかり海のシーンがいくつかあるものだと思い込んでいて、

なんならぼくの中では、泳いでいるシーンさえも存在していました。

記憶とは、じつに曖昧なものです。


実際は、冒頭のこどもたちが砂浜を行進するシーンのみ。

でも、このシーンが何とも言えず印象的なのです。

天真爛漫な3人のこどもは「ABCの歌」の

下ネタヴァージョンを楽しそうに歌いながら、

手足を高く上げ、砂浜を行進します。

バックには、大きな空と広い海。

そんなピースフルとしか言いようのない光景を、

カメラはゆっくりと横移動でとらえていくのです。


なんと優雅な時間。時間にしてわずか1分程度ですが、

とても心に残るワンシーンになっています。


そしてこの余韻があるからこそ、まるで島で暮らしているかのような、

おおらかな時間を体感できるのだと思います。

島言葉、三線、虫の声、島の風。

映像だけでなく、耳からも感じられる、心地のいい島時間。


この週末はぜひ、そんな海辺の町へショートトリップしてみてはいかがでしょうか?


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『ホテル・ハイビスカス』
Blu-ray 4,800円+税
DVD 3,800円+税
好評発売中
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
(C)2002「ホテル・ハイビスカス」パートナーズ

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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