キノ・イグルーの週末シネマ​ no.98
ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男|季節に寄り添う花のある暮らのカバー画像

ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男|季節に寄り添う花のある暮らし

文:キノ・イグルー 有坂塁

ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男|監督:ライナー・ホルツェマー(2016年・ドイツ/ベルギー)

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2019年05月03日作成



ある年齢まで、すべてを思い通りに形にしないと

気がすまない時期がありました。

手帳には、どの映画を、何時に、どの映画館で観るという情報が、

約1ヶ月分、日ごとにしっかり書き込んであり、

それをスケジュール通りにこなす。

そんなことに、言いようのない充実感を感じていました。


家族の行事や友だちからのお誘いが入ってもお構いなし。

平気で断ってしまうほど、ぼくは自分自身に、

つまり"意識"に縛られて生きていました。


しかしある日の、ある瞬間、その考え方が180℃ 変わることになります。

そのきっかけとなったのが「花」でした。


その日、ぼくは生まれて初めて、花をもって街を歩きました。

カフェにも入り、電車にも乗りました。

さすがに映画館には行けなかったけど、花とともに過ごす時間は、

これまでとは違うワクワクした気持ちを届けてくれました。

変な言い方ですが、無意識のことを初めて意識した。

それはつまり、本来持っているむき出しの自分に戻してくれたということです。


そんな癒し効果もある花との触れ合いを、

もっとも理想的な形で実践しているなーと感じるのが、

ファッション・デザイナーのドリス・ヴァン・ノッテン。

本作は、一切の密着取材を断ってきたドリスに初めてカメラが密着。

あわせて彼の夢のような暮らしも記録している

貴重なドキュメント作品になっています。


***


世界のセレブリティやファッションアイコンから愛されているドリス・ヴァン・ノッテン。

パリのグラン・パレで開催された2015春夏レディースコレクションから、

オペラ座で発表した2016/17秋冬メンズコレクションの

本番直後までの1年間にカメラが密着。

半年間の準備を経て開催されるショーの舞台裏、

アトリエや刺繍工房などの創作の現場、

さらに創作活動を支えるアントワープ郊外の邸宅にもカメラが入り、

完璧主義者で知られるドリスの意外な素顔ものぞかせる。


***


彼が休日を過ごすのは、ベルギー・アントワープ郊外にある豪邸です。

19世紀に建てられた古いお屋敷には、

庭師とともに作った美しくて広大な庭があり、

屋敷の中もそこで咲いた花々でいつも飾られています。


ドリスと彼のパートナーは、夕暮れになると、

庭園内の菜園で収穫した野菜やフルーツとともに

ワインを楽しんだりしています。

それはもう、うっとりするほど素敵なライフスタイルなのです。


きっと彼にとって、ここでの暮らしは

インスピレーションの源であるだけでなく、

自分が当たり前のように自分でいることができる、

かけがえのない時間なのでしょう。


庭の花をたくさん摘んで、次々と花瓶に生けるドリスを観ていると、

本作がファッション・ドキュメンタリーであることをつい忘れてしまいます。

でもそれほどに、「季節に寄り添って暮らすことの尊さ」を、

作り手が慈しみながら、カメラを回しているのが伝わってきて、

心揺さぶられるのです。ぜひ多くの人たちに観てもらいたい一作です。

犬好きの方も必見。


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『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
DVD 3,800円(税抜)
発売中
発売元:アルバトロス
(C)2016 Reiner Holzemer Film-RTBF-Aminata bvba-BR-ARTE

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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