すべてのものは永遠に続かず、消えてなくなってしまう。
夏が終わりゆくのを悲しくも美しく感じるのは、
桜と同じ日本的な感性のひとつなのかもしれません。
僕たちの夏の風物詩だった「ルーフトップシネマ」は、
海の日から8月末までの期間を3回に分け、
毎年、映画を3作品セレクトしていました。
そのフィナーレを飾るvol.3は、
だいたい8月の最終週に当たるため、
夏真っ盛りなvol.1やvol.2とは、
根本的に作品の選び方が異なってきます。
夏感はありながらも、寂しかったり、切なかったり。
秋へとつながっていく
心地いい"余韻"を残してくれる作品をセレクトしていました。
たとえば。
アラン・ドロン主演の忘れられない名作『冒険者たち』
名曲「コーリング・ユー」が印象的な『バグダッド・カフェ』
マレーシアの美しき人生讃歌『タレンタイム〜優しい歌』
宮沢賢治×細野晴臣のアニメーション『銀河鉄道の夜』など。
今回紹介する『ファンダンゴ』も、常に上映リストの中にはありました。
ただ、権利の問題もあって、結局上映は叶わず…
でもみなさんには、夏の終わりを感じるこのタイミングで、
ぜひ観ていただければと思います。
1985年の隠れた名作映画。
監督はケヴィン・レイノルズ。
内容は、このようになっています。
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ベトナム戦争中の1971年。
テキサス州オースティンの大学寮では、5人のグループがパーティを開いていた。
独身最後ということで主役になっていたワグナーが、突然結婚中止を宣言。
それをきっかけにリーダー的存在のガードナーが、
別れの前に友情の絆を確かめようと提案。
5人はそれぞれの思いを胸に、グループ結成時の思い出を探す旅に出る。
***
ケヴィン・レイノルズ監督が大学の卒業制作として作った
短編『Proof』が元となっている本作。
このショートムービーがスティーヴン・スピルバーグの目に止まり、
彼の会社「アンブリン・エンターテインメント」から
長編作品としてリメイクされることになります。
しかもこれが、アンブリンにとっての第1回製作作品!
あろうことか、社運をかけた第1作目に、
キャリアのない若手にチャンスを与えるだけじゃなく、
本人が作ったアマチュア映画のリメイクをさせてしまうというビッグサプライズ。
さすがはスピルバーグ、恐るべしです。
無軌道、無計画で突っ走る5人の若者たち。
青春のすべてが詰まったほろ苦くもあたたかいロードムービーは、
コミカルなシーンとシリアスなシーンを混在させつつ、
予測できないゴールへと向かっていきます。
最初は、彼らのバカ騒ぎ(=ファンダンゴ)を疎ましく感じるかもしれません。
しかし、時間の経過とともに5人への愛しさは増していき、
ラストでは、胸をギュッと掴まれてしまうこと間違いなしです。
初めて観たときは、その落差に驚いたなあ。
旅を彩る音楽も、また素敵で。
オリジナル・スコアは、若き日のアラン・シルヴェストリ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を手がけて
一躍売れっ子作曲家となる直前のさわやかな名曲を聴くことができます。
さらに、ジュークボックスのごとく、
エルトン・ジョンやキャロル・キング、
クリーム(エリック・クラプトン)、ステッペンウルフといった、
70年代ヒット曲の数々が、
物語の良さをさらに引き立ててくれるのです。
夏の終わりの気分に寄り添ってくれる映画『ファンダンゴ』。
秋を迎える前に、ご覧になってみてはいかがでしょうか。
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『ファンダンゴ』
DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©1984 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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